作品の評点の前に、ひとつだけ釈然としないものがある。作家の選び方だ。安岡章太郎、阿川弘之、小島信夫の大正生まれ組は第三の新人として、石原新太郎、大江健三郎は昭和30年代の作家として、北杜夫、古井由吉は昭和40年代の作家として近代文学史で評価を固めている。つまり、現存とはいえ往年の作家で今更の感もある。だから選ばれた作品も旧時に属する。手元にある昭和44年版の筑摩書房の全集 にさえ収録されたものが多い。ならば、一例だが三島由紀夫も司馬遼太郎も選ぶべきだった。作品は書店でいくらでも入手できる。
先に眉唾と書いたのは、文芸評論家たるものが『太陽の季節』も『海辺の光景』も『アメリカンスクール』も『楡家の人びと』も『芽むしり仔撃ち』等など、それ以前に読んでいなかっただろうか。恐らく半数は既読だろう。700作品読みは誇張だろうと思う。
さて、作品の評価だが、全てを取り上げられないので、最高と最低を転載する。最高の96点は、『仮往生伝試文』(古井由吉)『ねじまき鳥クロニクル』(村上春樹)『わが人生の時の時』(石原新太郎)であった。最低は20点以下の測定不能として船戸与一の作品8点を挙げている。ダメ点の割にはずいぶん読んでいる。最低は私も納得。最高の古井作は読んでも解らず途中で放った。慎太郎作はこの人に珍しく抑制の効いた文章でしたが印象に残っていない。村上作は、これが感心するほどのものかと今読んでいるところ。