本と旅とやきもの

内外の近代小説、個人海外旅行、陶磁器の鑑賞について触れていき、ブログ・コミュニティを広げたい。

村役場の宿直春秋抄(2)

2008-03-07 10:38:49 | Weblog
次の「人生観」は前にも触れたもので再掲になる。

村役場の宿直春秋抄(2)

人生観
明治三十七年九月十五日の項は「人生観」とある。
「人生は蝋燭の如し。初め火を点ずるや微々たる光を放ち、次第に光輝を増して芯が尽きるに及んで消滅す。人生亦(また)之(これ)に似たり。真弓と称する蝋燭はこの世に現出する十ヶ月以前の或る夜、母の懐にするところの蝋と父が齎(もたら)すところの芯とに依りて製出せられ…」

我が身は母なる蝋と父なる芯でこしらえたものだと喩える。では、どうやって火をともしたか。「母の手にするマッチ箱と父の有するマッチとのある感化作用によりて点火せられたり」と実にしゃれた言い回しをする。ところが「…今の心の滞りたるため光は明晰ならず。併し風の襲うことなければ芯のつきるまで微光を放ち得るか」と我が身の蝋燭は輝かず細々と灯っていると、すこぶる屈折した様子である。
一体、何を悩んでいたのかここではわからない。しかし推察できる文脈が後の項に出てくる。