福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

神道の新しい方向、折口信夫・・4

2016-10-11 | 法話
たゞわれ/\の情熱だけで、宗教を出現させることの出来るものでもありません。宗教には何よりもまづ、自覚者が出現せねばなりません。神をば感じる人が出なければ、千部万部の経典や、それに相当する神学が組織せられてゐても、意味がありません。いくらわれ/\がきびしく待ち望んだところで、さういふ人がさういふ状態に入るといふことは、必しも起つて来ることでもありません。しかし、たゞわれ/\がさうした心構へにおいて、百人・千人、或は万人、多数の人間が憧憬をし、憧れてゐたら、遂にはさういふ神を感得する人が現れて来るだらう、おそらくさういふ宗教が実現して来るだらうと信じます。

其ばかりではない。おそらく最近に、教養の高い人の中から、きつと神道宗教の自覚者をば出すことになるだらうと思ひます。それには、われ/\は深い省みと強い感情とをもつて、われ/\自身の心から、われ/\自身の肉体から、迸り出るやうに、さういふ人が、啓示をもつて出て来るやうにし向けなければなりません。極端な言ひ方をすれば、われ/\幾万の神道教信者の中に、最も神の旨に叶つた予言者たり得るものありやといふことに帰するのです。
われ/\のすべきことは、さういふ時を待つ態度であります。もし私が宗教的自覚状態に入つて、深い神の意志を把握する――。さういふ時に至るまでの用意が出来てゐるかといふのです。われ/\は、どういふ神を得ようとしてゐるか。われ/\はどういふ神をば曾て持つてゐたか。かういふ解決を要する、最後的な疑問を持つてゐるのでなくてはなりません

ところが、戦争末期になつて、不思議なことが起つたのです。誠に笑ふべき形を持つて現れて来たのですが――、そこに考へてよい旨が感じられました。それは神道家・官僚人らの間に、天照大神が上か、天御中主神が上かという争論が起つたことがございました。それをば世上の争ひとして、或は世上の争ひに似たやうなことで解決つけようとした人もあつたのです。其時、われ/\は非常に憤りを感じました。神々に関する知識を解決するのに、何たる行動をとるのだらう。宗教のことをば、どういふ筋合ひあつて、かういふ風に解決しようとするのか、神を汚すことの甚しいものとして、非常に残念に感じ、危く悲憤の涙をこぼすばかりに感じました。
かういふあり様だから、神々に背かれたのです。しかし今、冷やかになつて考へます反省は、日本のこれから後に現れて来る宗教上の神の実体といふものが、そこに示されてゐるのだといふことです。天照大神、或は天御中主神、それらの神々の間に漂蕩し、棚引いてゐる一種の宗教的な或性質の、混じてゐるところの神なるものが、暗示してゐるのではないかといふことです。
只今になつて、さう考へるのです。其はかういふことです。日本の信仰の中には、他国に多少その要素があつても、日本的にまた世界的にも、特殊であり、すべてに宗教から自由なものと言つていゝものゝあることです。
それは、高皇産霊神・神皇産霊神と言つてゐる――、あの産霊神の信仰です
。字は、産むの「産」、たましひの「霊」で、魂を産むといふ風に宛てられてゐますが――、神自身の信仰はさうでなく、生きる力を持つた体中へ、魂をば植ゑつける、或は生命のない物質の中へ魂をば入れる、さうすると魂が発育するとともに、それを容れてゐる物質が、だん/\育つて来る。物質も膨れて来る。魂も発育して来るという風に、両方とも成長して参ります。その一番完全なものが、神、それから人間となつた。それの不完全な、物質的な現れの、最も著しく、強力に示したものが、国土或は島だ、と古代人は考へました。それが日本の大昔の神話に現れてゐる、大八洲国の出来たといふ物語り、或は神々が生れたといふ物語りです。
つまり神によつて体の中に結合せられた魂が、だん/\発育して来る、それとともに物質なり肉体なりが、また同時に成長して来る、その聖なる技術を行ふ神が、つまり高皇産霊神・神皇産霊神、即むすびの神であります。つまり霊魂を与へるとともに、肉体と霊魂との間に、生命を生じさせる、さういふ力を持つた神の信仰を、神道教の出発点に持つてをります。それで考へ易い誤りがあつて、日本は昔から、その産霊神をば祖先として考へてゐる家々もありました。
おなじ考へ方からして、古代の書物に、これを宮廷の祖先といふ風にも考へてゐるのです。皇祖とか祖宗とか書いてあります神の中には、この高皇産霊神・神皇産霊神たちを申してゐる例も多いのです。しかしよく考へますと、魂を植ゑつけた神で、人間神ではないのです。しかし日本人は、さういふ神々を祖先として感じ易かつた。その論理の筋は訣ります。

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