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2023年/社会経済書ベスト10『日銀の責任』『ジェンダー格差』『不倫』『国家は巨大ITに勝てるのか

2023-12-26 | こんな本を読んでいます
今年も恒例、2023年のベスト10冊を選びました。
経済・社会に関する新刊の中で価値の高いものです。
研究者や編集者と違い、新味や学術的価値ではなく政策における有用性を重視しています。

直近のダイヤモンドや東洋経済の合併号のリストとは相当違います。
日本社会の喫緊の課題に正面から向き合っているかどうか、という見地です。

「今年も案の定、日本経済は着実に衰退して先進国で最悪水準の低成長、
 今年の新刊で、安倍や菅だけでなく与党やヒラメ官僚、そして多くの識者も
 海外の政策や事例から謙虚に学ぶ能力も意欲も欠けている事実が鮮明になってしまいました。。」

と三年前に書いたのですが、今年はコロナ明けが海外より遅くなったせいで
昨年より少しましになったものの依然として低成長の現実は変わらず。

日本政治は保守の自滅が鮮明になってきて妙なポピュリズムが流行り、
新刊でもおかしなものが増えているので良書を選ぶのが肝要です。


 ↓ これまでのベスト10

2022年/社会経済書ベスト10『どうすれば日本人の賃金は上がるのか』『ウクライナ戦争』『統一教会』
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/1098cc3ad3ecc471e8f0173aae806e96

2021年/社会経済書ベスト10-『勤勉革命』『日本経済の長期停滞』『大下流国家』『低度外国人材』等
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/e35b9ce85e47ae9ce50681bd919fffa1

2020年/社会経済書ベスト10-『デジタル化する新興国』『移民の経済学』『韓国社会の現在』etc
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/68eddd3d8095ab47d749e358fff26d47

2019年/社会経済書ベスト10-『人口で語る世界史』『貧困専業主婦』『年金「最終警告」』etc
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/7ac26986c0785b472ac1fdb463e8a1ee

2018年/社会経済書ベスト10-『新・生産性立国論』『新・日本の階級社会』『知ってはいけない2』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/896bb23d60c4c76e0757567ab5b70150

2017年/社会経済書ベスト10-『デジタルエコノミーは…』『子育て支援と経済…』『トランプ王国』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/9cab7d1ddc3a8f2d3acbd9fa08c8fcde

2016年/社会・経済書ベスト10 -『グローバリズム以後』『子育て支援が日本を救う』『教育超格差大国』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/0a2d0b434eed9677d1697b4a732267d8

2015年/社会・経済書ベスト10 -『奇跡の村』『日本国債暴落』『新・観光立国論』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/60231fb53c5f0c34481596636d9b8f89

2014年/社会・経済書ベスト10 -『日銀、「出口」なし!』『米軍と人民解放軍』『社会保障亡国論』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/15fdce254ff70decccdc1cae539cd752


さて、それでは今年のトップ10です。


第1位 『日銀の責任 低金利日本からの脱却』

『日銀の責任 低金利日本からの脱却』(野口悠紀雄,PHP研究所)


 → はっきり言って、統計的事実からはアベノミクスは完全に失敗。
   円安で企業だけ儲け、日本経済は衰退したことが数値で示されている。
   GDPが伸びないと賃金は上がらない、言う迄もないことなのだが
   リフレ派はこの程度のことすら理解できず今も言い訳と負け惜しみを続けている。

▽ こちらも推奨、低成長のままで高齢者三経費にバラ撒き続けると社会保障負担が4割増になる未来

『2040年の日本』(野口悠紀雄,幻冬舎)



第2位 『ジェンダー格差-実証経済学は何を語るか』

『ジェンダー格差-実証経済学は何を語るか』(牧野百恵,中央公論新社)


 → ノーベル賞を受賞したゴールディン教授の著書よりこちらの方がお薦め。
   ゴールディン教授に限らず様々な実証研究の成果が幅広く紹介されている。

   中でも、柔軟な働き方を選好したり長い通勤時間を嫌うといった
   女性自身の選択により所得格差が広がる事実を指摘した功績は大きい。
   但し著者もバイアスが強く「わずかな事実」が偏見に繋がると決めつけておきながら
   当書の実証研究も「わずかな事実」程度で結論を出している箇所が複数ある。

   『貧困専業主婦』を見れば分かるように著者が思うより日本のジェンダーは特殊だ。
   世界的に見て家事育児時間が突出して長い日本女性のバイアスなど引き続き研究を望みたい。


第3位 『教養としての財政問題』

『教養としての財政問題』(島澤諭,株式会社ウェッジ)


 → こちらを推薦書に取り上げたエコノミストは慧眼だ。
   少子化対策には高齢者三経費の削減が効果大という指摘が非常に重要、
   (現役世代の経済負担軽減に繋がるからである)
   但し奈義や下條の出生率急回復から全く学んでいないし
   効果の大きい現物給付の計量分析に触れていないのは大失点。

   あと著者の立場(大学教員)から言えば若者擁護の姿勢は分からないでもないが
   少子化が進むのに大学を増やしたため若年層の人的資本は明らかに劣化している。
   著者はそれを実感している筈なのに沈黙しているのは怯懦であろう。


▽ 上掲書に比べやる気のなさが目立つこちら、現金給付や第三子支援が下策なのを書いたのはいいのだが。。

『なぜ少子化は止められないのか』(藤波匠,日経BP 日本経済新聞出版)



第4位 『国家は巨大ITに勝てるのか』

『国家は巨大ITに勝てるのか』(小林泰明,新潮社)


 → こちらは読売記者による秀作レポート、
   経済誌が推薦書に入れていないのは節穴と思う。
   所謂GAFAMの強欲さや独占の問題が追及された
   数年前の米国議会でのやり取りを詳細に伝えている。
   特にアップルの執拗な訴訟攻勢やアマゾンの傲慢さが印象的。

   遅きに失した観はあるがさくらインターネット等の
   国内勢への政策援護は絶対必要と改めて実感させられた。


第5位 『不倫―実証分析が示す全貌』

『不倫―実証分析が示す全貌』(五十嵐彰,中央公論新社)


 → 男性は職場に女性が多いこと、女性は自由な時間が多いことが
   不倫の誘因になることを明らかにした客観的で緻密な研究である。
   いずれ女性の不倫率25%も上昇して男女平等になってゆくだろう。。

   本来、ジェンダー平等というのは女性の責任が重くなることでもあり、
   その利己主義や欲望による負の側面が拡大することですらあるのだ。

▽ ジェンダー平等ばかり拘る日本のエリート女性のバイアスは、上掲のような暗部を無視する傾向あり

『さらば,男性政治』(三浦まり,岩波書店)



第6位 『シン・男がつらいよ』

『シン・男がつらいよ 右肩下がりの時代の男性受難』(奥田祥子,朝日新聞出版)


 → 日本の男性の辛さは世界でも突出して最悪水準だと
   OECDも調査で認めた
ことにまず驚かされた。

   日本の高学歴女性が完全無視している領域であり、
   勇敢にもこの問題を世に問うた著者に敬意を表したい。
   また、こうした辛さを男女双方が背負うのが真のジェンダー平等ではないだろうか?


第7位 『終わらない戦争 ウクライナから見える世界の未来』

『終わらない戦争 ウクライナから見える世界の未来』(小泉悠,文藝春秋)


 → ジャベリンのような限定的な支援しかないウクライナの善戦が想定外だったなど
   当初の見方が修正されてゆく過程を正直に述べているのが誠実で評価できる。
   見通しの誤りを何故か認めないトッドや佐藤より的確な視点、
   矢張りウクライナ侵攻は世界大戦ではなく朝鮮戦争に近いと思われる。

▽ 「即時停戦」を唱えてしまった論者二人、完全にロシア擁護になってしまっていて黒歴史確実だろう。。

『ウクライナ戦争の嘘-米露中北の打算・野望・本音』(佐藤優
・手嶋龍一,中央公論新社)



第8位 『ロシアの眼から見た日本 国防の条件を問いなおす』

『ロシアの眼から見た日本 国防の条件を問いなおす』(亀山陽司,NHK出版)


 → 佐藤優・鈴木宗男らとは大違いなリアリズムに基づく冷静な分析である。
   ロシアは伝統的に相手の弱みにつけこんでくる外交姿勢だから
   安倍の北方領土交渉は最初から失敗必至だったことが分かる。
   (著者によれば、北方領土問題の決定権は日本にないという)
   但し特に後半が外交偏重、交渉で平和に出来るかのような思い込みが窺われる。。

▽ EU危機以来ずっと予言が外れ続けているトッド、最後に「ロシアも悪い」とする無様さ。。

『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』(エマニュエル・トッド,朝日新聞出版)



第9位 『英語と中国語 10年後の勝者は』

『英語と中国語 10年後の勝者は』(五味洋治,小学館)


 → 国力低下とともに日本語の存在感も低下している現状だが
   ASEANや東欧等で日本語学習ニーズがあるのに残念ながら教え手は不足。
   経済面や人材獲得から言えば確かに日本版「孔子学院」が必要だ。
   (中国と違いスパイ目的はないから歓迎される筈である)

▽ 上掲書のような戦略眼がなく、自国の都合ばかりだと以下のような単純労働移民受け入れにしかならない。。

『人口亡国 移民で生まれ変わるニッポン』(毛受敏浩,朝日新聞出版)



第10位 『「イクメン」を疑え!』

『「イクメン」を疑え!』(関口洋平,集英社)


 → イクメンの本質はエリートの特権の象徴であり
   フェミニズムを装った新自由主義に立脚していると指摘する鋭い論考、
   非大卒を排除し貧困と非婚を黙殺しているイクメン論の欺瞞性を暴いた功績は大きい。
   米国では移民を、日本では非大卒を低賃金でケアサービスに使うことで
   高所得層が仕事と家庭を「幸せに」両立させているのだ!

▽ こちらは日本男性の仕事・通勤時間の長さを指摘したのは良いが、自己の特権性に無自覚なのが残念

『ポストイクメンの男性育児-妊娠初期から始まる育業のススメ』(平野翔大,中央公論新社)



次点 『世界で第何位?-日本の絶望 ランキング集』

『世界で第何位?-日本の絶望 ランキング集』(大村大次郎,中央公論新社)


 → こちらは意外な良書で、下手なリフレ派の言い訳より遥かに中身がある。
   日本は主要国の中で対内投資が最低、しかも非正規雇用は最も多いから
   経済低迷
に陥ったことが数値から明瞭に理解出来るのが素晴らしい。
   日本企業が生産拠点を海外移転すると生産性が悪化する
   という説も現実と合致しており今後の実証研究に期待したい!


次点 『ルポ 大学崩壊』

『ルポ 大学崩壊』(田中圭太郎,筑摩書房)


 → これは大学私物化の典型的な例であり必見、
   愚かなポピュリスト政治家が大学無償化を行うと
   こうした無軌道で無法な経営をしている大学にも
   巨額の税が投入され続ける訳で、重大な問題である!


次点 『患者が知らない開業医の本音』

『患者が知らない開業医の本音』(松永正訓,新潮社)


 → これは正直に書いてしまっているのが興味深い。
   矢張り開業は「失敗した人を見たことがない」ような世界で
   著者も例に漏れずすぐ外車を買ってしまった
ことを告白している。。
   他国ではあり得ないような開業自由や情報公開の遅れには触れずに
   日医を弱小団体とするナイーブさにも仰天させられた。


番外編:『バフェット解剖 世界一の投資家は長期投資ではなかった』

『バフェット解剖 世界一の投資家は長期投資ではなかった』(前田昌孝,宝島社)


 → こちらは何度か紹介しているがかなり好著。
   実はバフェットは長期投資ではなく中期短期の取引もあり
   ハイテク銘柄でもかなり儲けていてその代表例がアップルだとか。

   今の東証がバフェット指数では歴史的な割高であることも明示しており
   非常に参考になる本。単純で無思考な賞賛を排した冷静な分析が評価高い。

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