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2020年/社会経済書ベスト10-『デジタル化する新興国』『移民の経済学』『韓国社会の現在』etc

2020-12-30 | こんな本を読んでいます
今年も恒例、2020年のベスト10冊を選びました。
経済・社会に関する新刊の中で価値の高いものです。
研究者と違い、新味や学術的価値ではなく政策における有用性を重視しています。

直近のダイヤモンド合併号の「ベスト経済書」とは内容が全く違います。
日本社会の喫緊の課題に正面から向き合っているかどうか、という見地です。

今年も矢張り日本経済は着実に衰退して先進国で最悪水準の低成長、
今年の新刊で、安倍や菅だけでなく与党やヒラメ官僚、そして多くの識者も
海外の政策や事例から謙虚に学ぶ能力も意欲も欠けている事実が鮮明になってしまいました。。


 ↓ これまでのベスト10

2019年/社会経済書ベスト10-『人口で語る世界史』『貧困専業主婦』『年金「最終警告」』etc
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/7ac26986c0785b472ac1fdb463e8a1ee

2018年/社会経済書ベスト10-『新・生産性立国論』『新・日本の階級社会』『知ってはいけない2』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/896bb23d60c4c76e0757567ab5b70150

2017年/社会経済書ベスト10-『デジタルエコノミーは…』『子育て支援と経済…』『トランプ王国』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/9cab7d1ddc3a8f2d3acbd9fa08c8fcde

2016年/社会・経済書ベスト10 -『グローバリズム以後』『子育て支援が日本を救う』『教育超格差大国』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/0a2d0b434eed9677d1697b4a732267d8

2015年/社会・経済書ベスト10 -『奇跡の村』『日本国債暴落』『新・観光立国論』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/60231fb53c5f0c34481596636d9b8f89

2014年/社会・経済書ベスト10 -『日銀、「出口」なし!』『米軍と人民解放軍』『社会保障亡国論』他
http://blog.goo.ne.jp/fleury1929/e/15fdce254ff70decccdc1cae539cd752


さて、それでは今年のトップ10です。


第1位 『デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か』

『デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か』(伊藤亜聖,中央公論新社)


 → インド・中国・アフリカでのデジタル化の急速な発展には驚かされるが、
   より重要な点として情報関連産業は付加価値に比して雇用創出力が極端に低く、
   先進国で雇用全体の1%未満
という統計的事実は決定的な意味を持つ。
   (デジタル化は成長率悪化と格差拡大のディストピアを必然的に招くことが示唆される)。

▽ 大儲けする投資家・企業経営層と一般国民との「分断」が、益々拡大しそうである

『エンジェル投資家とは何か』(小川悠介,新潮社)



第2位 『移民の経済学-雇用、経済成長から治安まで、日本は変わるか』

『移民の経済学-雇用、経済成長から治安まで、日本は変わるか』(友原章典,中央公論新社)


 → この一冊は新書には勿体ない素晴らしい本格派である。
   高度人材受け入れは財政を改善させるが物価高(特に不動産)を招く、
   単純労働力の受け入れはデフレと長期失業、社会保障負担増を招くという
   非常に重要な指摘がある。(腐敗した安倍の事実上の「移民」政策は後者にあたる)
   他にも移民受け入れの恩恵は高学歴高所得の女性ばかりに集中するという嫌な研究結果も。


第3位 『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因』

『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因』(山田昌弘,光文社)


 → 非婚化こそ少子化の真因だから、日本政府の政策は根本的に間違っている。
   夫に家計所得を支える責任を求める比率が北欧の2倍以上もある日本女性は
   仕事より消費生活を重視している(だから男性育休推進で出生率が悪化した)。
   高所得層ですら9割近くが「夫が主に家計を支えるのが当然」という日本女性の
   世界的に見ても特殊なジェンダー・バイアスには流石に驚かされた。

▽ 育休が少子化対策になるかのような主張は、日本や韓国(無償化でも育休推進でも低出生率)の統計的事実に反する

『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』(小室淑恵,PHP研究所)


▽ 日本女性のジェンダーバイアスを直視できないと、このような責任転嫁の主張になってしまう

『「男女格差後進国」の衝撃 ~無意識のジェンダー・バイアスを克服する~』(治部れんげ,小学館)



第4位 『韓国社会の現在-超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』

『韓国社会の現在-超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』(春木育美,中央公論新社)


 → 安倍・菅・厚労省の少子化対策は既に失敗している韓国の劣化版焼き直し、
   保育無償化も男性育休推進も一部を利するだけで出生率は改善しない下策だった!

   また、日本より遥かにデジタル化が進む韓国で経済成長率の低下・若年失業率の悪化・
   貧困化・格差拡大・非婚化・出生率悪化が進んでいるという事実は重大である。
   デジタル化は必然的に情報漏れと不正をもたらすが、より深刻な害もあるのだ。

▽ DX推進ばかり主張する論者は、デジタル化の進んだ韓国経済の病弊を理解していない

『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』(冨山和彦,文藝春秋)


▽ これも同様、デジタル化だけでは日本の「韓国化」つまり階層分断と経済低迷は不可避

『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』(安宅和人,ニューズピックス)



第5位 『AI vs.民主主義: 高度化する世論操作の深層』

『AI vs.民主主義: 高度化する世論操作の深層』(NHK取材班)


 → 名著「デジタル・ポピュリズム」はロシアの情報工作に頁が割かれていたが、
   こちらはアメリカでのデジタルマーケティングに踊らされる米国のB層に焦点。
   トランプを僅差で当選させたのはヘイトと詐術に満ちたオンラインでの
   情報操作に引っかかった惨めで愚かな中低所得層の白人
であることが明らかだ。

▽ トランプが支持を集めたのは、矢張り米国の腐敗と貧困化によるものと思われる

『なぜ中間層は没落したのか:アメリカ二重経済のジレンマ』(ピーター・テミン,慶應義塾大学出版会)



第6位 『スーパーリッチ ── 世界を支配する新勢力』

『スーパーリッチ ── 世界を支配する新勢力』(太田康夫,筑摩書房)


 → 米国は人民の国ではなく、エリートが支配する
   富裕層のための国となり果てたことが明らかになった。
   バフェットのような志の高い富裕層は少数派で、
   多くは利己主義と自己正当化ばかりである。

▽ 富裕層が大儲けできる政策とは、こうした減税と規制緩和である(騙されてはならない)

『税金下げろ、規制をなくせ~日本経済復活の処方箋~』(渡瀬裕哉,光文社)



第7位 『無駄だらけの社会保障』

『無駄だらけの社会保障』(日本経済新聞出版)


 → コロナ禍で一部の医療関係者だけに負担が極度に集中した原因は、
   医療界と政策の硬直化・セクショナリズムにある。
   医療側がセルフメディケーションを嫌がる、
   給料が減るから公立病院の再編に反対する看護師など
   自己の利害ばかりに拘る医療界の通弊も相変わらず深刻である。

▽ だから今の日本でコロナ患者向けの病床は全体の数%でしかない

『日本の医療の不都合な真実 コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側 』(森田洋之,幻冬舎)



第8位 『欧州分裂クライシス: ポピュリズム革命はどこへ向かうか』

『欧州分裂クライシス: ポピュリズム革命はどこへ向かうか』(熊谷徹,NHK出版)


 → 英国は欧州最大の格差の国だから不満が高まりブレグジットに繋がった、
   ドイツでも置き去りにされた旧東独で極右が勢力を伸長させているという欧州の実態。
   (歪んだナショナリズムと極右が、貧困と経済格差を養分として肥え太る……

▽ 左派と右派で分断が深まる欧州の現状を無視する、日本の左派による机上の空論も大問題。。

『左翼の逆襲 社会破壊に屈しないための経済学』(松尾匡,講談社)


▽ 無責任なバラ撒きを求める左派も、日本を無気力化させ社会分断に陥らせた一因である

『コロナが加速する格差消費 分断される階層の真実 』(三浦展,朝日新聞出版)



第9位 『証言 沖縄スパイ戦史』

『証言 沖縄スパイ戦史』(三上智恵,集英社)


 → これはノンフィクションとして超一流で2020年の金字塔と言える。
   沖縄戦において民間人は、中野学校の教えに従った同胞によって虐殺され
   大本営では「非戦闘員(つまり一般庶民)は自決してくれれば」と語っていた。

   歴史を歪める自称保守やネトウヨはこの厳然たる歴史の前に頭を垂れて自省すべきである。

▽ 自称保守やネトウヨが好む戦前の日本は、差別と暴力と虐殺の社会だったという動かしようのない史実

『民衆暴力―一揆・暴動・虐殺の日本近代 』(藤野裕子,中央公論新社)



第10位 『自衛隊は市街戦を戦えるか』

『自衛隊は市街戦を戦えるか』(二見龍,新潮社)


 → 軍事はイデオロギーではなくこの本のようにリアリズムと合理主義で語るべきだ。
   ウクライナのハイブリッド戦の簡潔な解説とその波紋の説明が的確で、
   この手の本によくある歪んだナショナリズムが殆どないのが美点。
   (左右どちらでも、著者がイデオロギーに取り憑かれると往々にして思考停止する)


次点 『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』

『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(川内イオ,ポプラ社)


 → 日本経済は衰退していても、日本の食の職人は素晴らしい。
   そう再確認させられる素晴らしいレポート。
   マクロでの日本農業は内需縮小を受けじりじり衰退するしかないが、
   ミクロでの大健闘は勿論あり得るし、そうでなければならない。


次点 『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』

『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』(清水寅,講談社)


 → 上掲書に近い一冊。こちらの高付加価値型の農業も希望が持てる。
   真の地方創生は、自治体においては人口政策であるし、
   個々の事業者においては付加価値向上とマーケティングだ。


次点 『北海道のワイナリー つくり手たちを訪ねて』

『北海道のワイナリー つくり手たちを訪ねて』(阿部さおり,北海道新聞社)


 → 日本のコメと日本酒は苦しい「撤退戦」を強いられるだろうが、
   日本ワインは成長曲線に入ったばかりで前途洋々である。
   観光でも輸出でも地域経済に益々貢献するようになろう。

   葡萄品種の紹介をはじめ実に本格的で素晴らしく、
   これを出したのは北海道新聞の大手柄である。

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