英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2019王位戦挑戦者決定戦 羽生九段ー木村九段 その5「手数の大損」

2019-07-03 20:57:27 | 将棋
「その1」「その2」「その3」「その4」の続きです。


 第11図以下△6六飛成に▲1八玉、さらに△2六歩と重しを乗せられて▲3八桂を強いられる辛抱の指し手が続く。
 しかし、次の木村九段の△6七角成(第12図)が緩手で羽生九段にチャンスが巡ってきた(木村九段もこの手に最後の1分を使い、1分将棋に)。


 ここ(第12図)で、▲2六桂が有力だった
(以下棋譜中継解説)
対して(1)△2六同竜は以下▲2七歩△6六竜▲6三歩△4四歩▲6二歩成△4三玉▲5二と△3一金▲3五桂△3四玉▲4二とが予想される進行で、先手がやれそう。
 後手は自玉を広くする(2)△5四歩がよく、以下▲5四同馬△6三金▲2七馬△4五桂の進行は後手有望のようだ。


 ただし、(2)の変化の解説は疑問。
 △5四歩に対しては▲同馬の一手ではなく、▲6四歩(変化図5)や▲6一とで先手良しのようだ。

 変化図5の▲6四歩に△同龍なら先手の2六の馬の取りが消えるので、▲6三歩や▲6一となどジワリと迫ればいいようだ。また、早逃げの△5三玉や王手で攻防に馬を利かす△4五馬など油断できない手があるが、変化図4は先手優勢のようだ。
 ちなみに(1)の△2六同竜には▲6四歩でも先手が良さそう(ただし、▲6三歩は馬の利きを遮断してしまうので先手玉が詰んでしまう)。


 実戦では、羽生九段は▲6一と。△6一同玉と下段に落とし、寄せを目指した一手だ。
 ところが、一転▲2七歩と自陣に手を戻す。
 ……おそらく予定は▲6三歩(変化図6)。

 しかし、▲6三歩は馬の利きを止めることになり、先手玉に詰みが生じてしまう
 変化図6以下△2七金▲同銀△同歩成▲同玉に△4五馬▲3六金△同馬▲同歩△同龍▲同玉△4五銀以下詰み。(△4五馬のところ△2六歩と打って清算し、△2五銀以下の詰みもある)

 一転の▲2七歩は秒読みの中の予定変更だったと思われる。
 いや、もしかすると、玉を下段に落としておいて自陣に手を戻すというのは、緩急自在の羽生マジックだったのかもしれない………が。
 ▲2七歩以下、△同歩成▲同銀と進んだ次の一手が、木村九段らしい一着。好手だった。
 △7三金打!(第13図)

 この金打ちは、▲6三歩や▲7二馬(飛成)に備えた手だが、もう一つの狙いがあった(後述)。
 ならばと羽生九段は▲7二歩。

……しかし、この手は良くなかった。
 飛車と馬の利きの焦点の歩だが、相手の飛車と馬の利きではなく、味方の飛車と馬である。自ら強力であるはずの2枚の大駒を無力化させてしまった。
 しかも、木村九段にパスしてもらって▲7一歩成と指したとしても、このと金、少し前に捨てた7一のと金を再生しただけである。
 実際、▲7二歩に△5二玉とかわされると、先手の飛・馬・歩の“置き去り感”が強い。
 7二歩のままでは歩を打った意味がないので、▲7一歩成(第15図)は何をおいてもの指し手。

 第15図は部分的に“▲6一と”と“と金”を捨てる前(第12図)と同じ。
 この両図を見比べると、▲2七歩からの折衝による後手の1歩の増加を差し引くと、後手の1歩と1手の得(後手番になっている)と、7三に金が配置されている点。
 この7三の金が後手が打たされ負担となり、加えて攻め駒の不足に繋がるのなら、先手の1手パスも救われるのだが、金は守りに働くのみならず、先手を窮地に追いやる布石となっていたのである。


 ちなみに、棋譜中継解説で紹介された局後の感想は
「ここで(▲7二歩に代えて)もうちょっといい手がなかったかなあ?」と羽生。まず調べられた(1)▲9一馬は、以下△5二玉▲8一飛成△6三金で後手がよい。
 有力とされたのは(2)▲6三歩。以下△同金▲7二飛成△5二玉▲6三竜△同竜▲5一金△同玉▲6三馬△5二金▲6四歩に(2-ア)△6八飛は▲7一飛△6一歩▲7二馬、(2-イ)△6一歩は▲7一飛△6六飛▲7三歩△6三金▲同歩成△同飛▲7二歩成で、いずれも先手が悪くなかったようだ。


 この▲6三歩は攻めるとしたら第一感の手だ。この手が見えなかったのは不思議で仕方がない。
 想像力の働かせすぎかもしれないが、▲6三歩と打つと先手玉が詰んでしまうことによる予定変更が、▲6三歩を視界から除外してしまったのかもしれない。

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