英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2019王位戦挑戦者決定戦 羽生九段ー木村九段 その3「難解な遁走」

2019-06-11 16:31:18 | 将棋
「その1」「その2」の続きです。
(複雑で難解すぎて脳がパンクしそう。記事にしたことを後悔中…)

 第6図で▲8一馬と突っ張った為

 △6一飛(第7図)と打たれ、是非もなしの▲7一歩成に△6六飛と切られ▲同歩に△6七銀と打ち込まれた第8図。
 9四の角が先手玉を睨み、先手の2筋3筋の金銀の壁も痛く、先手玉の危険度は非常に高い。
 銀打ちに▲同玉と取るのは上記の要素(後手角の睨みと先手金銀の壁)が手を組んで、簡単に詰んでしまう。
 となると、玉をかわすしかないが、その場所は4八か、4九か……

 羽生九段は、ほぼノータイムで▲4八玉。
 読み切っているのかと思ったが、その前手の△6七銀打に木村九段が14分考えているので、その考慮中にどちらに逃げるかを考えたのだろう。この時点(▲4八玉)での残り時間は羽生15分、木村12分。
 木村九段の14分の考慮は、△6七銀打と△7七銀成の比較と思われる。△7七銀成は桂を取りながらの開き王手で有力だが、以下▲7六歩と中合し△同角とさせ、後手陣への角の利きを無くしておいて▲6七桂で難解。

 羽生九段の▲4八玉に木村九段はさらに考え、4分を消費して桂を取っての△7七銀成(第9図)。
 
【棋譜中継の解説】
桂を補充しつつ9四角の利きを通し、△5八銀成からの詰めろをかける。現局面で(1)▲3六歩は△2五桂がいかにもぴったりだし、(2)▲4六歩だと△4九飛の好手があって、先手玉が詰む。(3)▲2七銀には△5九飛が妙手だ。


 先手の玉にうまい受けはなさそうだ…絶体絶命!?
 羽生九段も考慮に沈む。やはり、受けはないのだろうか?
 10分考えて(苦しんで?)▲8二飛。これで残り時間は5分となった。
 いつ飛車を打つかは非常に難しいが、実戦的には良いタイミングだったのではないだろうか?玉をかわすか、桂合するか、実に悩ましい。
 木村九段は2分考えて(これで残り6分)、△6二桂(第10図)。
【棋譜中継の解説】
代えて△4一玉(変化図3)がまさったかもしれないようだ。例えば、以下▲6三馬△3一玉▲5三馬△4二桂の進行は後手がやれそう。
「(△4一玉は)ちょっと怖くて」(木村)


 上記の解説は、大雑把すぎるが、“ニコニコ生放送”だったか“AbemaTV”だったか、△4一玉で後手必勝の評価値が出ていたが、△6二桂でほぼ互角に戻った。
 私は“ニコニコ生放送”はほとんど観ない。画面を流れていくコメントが羽生ファンの私に突き刺さることが多いからだが、この日は流石に形勢が気になってしまい、禁断の中継に手を出してしまった。


 これだけ評価値が激変するのなら、はっきりとした原因があるはず。

 二つの指し手の大きな違いは後手の持駒の桂の有無。
 なので、「先手が▲3九金と開いた玉の逃走路を△2六桂で封鎖できる」のがその理由かと思った。しかし、仮に△4一玉▲3九金に△2六桂と進めた場合、以下▲6三馬△3一玉▲5三馬△2一玉に▲2六馬でせっかく打った桂を抜かれてしまう。それに、先手が▲3九金の前に棋譜中継の解説のように▲6三馬△3一玉▲5三馬△4二桂に進めると、2六に打つ桂がなくなってしまう……ともっともらしい理屈を考えていたが、全然違った(笑)
 そもそも、▲3九金には△5八飛と打たれて後手必勝!
 △5八飛を王手で打たれてしまうので、第8図の△6七銀打に対しては▲4八玉ではなく▲4九玉の方が良かったのだ(▲4九玉は後手の9四の角筋に入ったままなので、何かの拍子に開き王手で駒を取られる危険性があるので指しにくいが)。他にも▲4九玉の方が良い理由があると思うが、割愛させていただく。

 まだ「△6二桂では△4一玉の方が良かった」理由の解明には至っていないが、それは実戦が進んだ少し後の局面で△4一玉の方が良かった一番の理由が浮かび上がる。
 それについては後述するとして、木村九段が△4一玉とかわさなかった理由を少し考えてみる
 △4一玉とかわすと▲6三馬△3一玉▲5三馬……といった具合に、後手はたくさん王手をかけられることを覚悟しなければならない。嫌な変化の一例として、△4一玉に▲6三馬△3一玉▲2四桂△2三玉に▲3六歩(変化図3-2)が先手玉の詰めろを解消しつつ、▲3二飛成△同玉▲2四桂△2三玉▲4一馬以下の後手玉への詰めろ、つまり“詰めろ逃れの詰めろ”になっている。

 タイミングを見て▲6七金と銀を補充する手もあるかもしれない。
 もちろん、変化図3-2では△2五桂と詰めろ逃れの詰めろがあり、大丈夫なようだが、残り時間が充分にあるのならともかく、△4一玉はいろいろ嫌な変化がちらついて、残り数分では踏み込めなかったのも無理はない。

「その4」へ続く

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