第4局を逆転で制し、4期ぶりに名人復位を果たした(通算8期)。
3年前、3連敗後に3連勝を返したものの、最終局に敗れ失冠した後、順位戦を圧倒的な勝率で挑戦権を得たが2-4、1-4と、森内名人の厚い壁に跳ね返されていた。
「森内名人には相性が悪いなあ」「(森内名人は)名人戦は強いなあ」という思いが、昨期は完膚なきまで叩き伏せられ「勝てる気がしない」とまで至ってしまった。
羽生三冠が不調なのかというと、そうではなく、その後の棋聖、王位、王座では強さを発揮している。なので、「羽生三冠が力を出し切っていない」あるいは「力を出させてもらえない」という感触はあるものの、「名人戦での森内、竜王戦での渡辺に、真剣勝負では勝たせてもらえない」と言われると反論はできない。
そして今期の名人戦で四度敗れるとなると、もはや「森内>羽生」という歴史的認識の烙印を押されてしまう。もちろん、勝負の世界、勝ち負けの結果に目を背けずに認めなければならないが、あまりにも辛い。まさに「負けられない戦い」であった。
これは全くの憶測だが、当の羽生三冠も今期の名人戦には強い決意を持って臨んでいるように感じられた。順位戦が独走状態になりつつあった昨年末辺りから、名人戦を意識した戦型を選択しているような気がする。名人戦で使える戦型や局面を模索しつつ、森内名人に戦型を絞られない(手の内を悟られない)指し回しをしているような気がしてならなかった。(もちろん、「羽生三冠は目前の将棋をおろそかにする筈がない」ことは、言い切っておかねばならない)
11月21日の王将リーグ5回戦から年度末までの22戦16勝6敗、.727。
6敗の内訳は、棋王戦敗者復活戦決勝の永瀬戦は矢倉の定跡の確認(棋王戦本戦でも同戦型で永瀬に敗れており、さらに王将戦でも同戦型を試し、分かれは良かったが寄せで判断を誤り敗退している)。また順位戦の深浦戦は、あっけなく土俵を割っている。
そして、4敗は王将戦での渡辺戦(●●○○●○●)。
この7番勝負、対戦相手の渡辺二冠の印象は「第3局からペースが上がってきた」というもの。残念ながら王将戦敗れたものの、この王将戦や他の棋戦の指しっぷりから、「羽生三冠が好調」という感触があり、今期の名人戦は互角以上の戦いはできるはずという自信?はあった。
そして第1局。序盤からのっぴきならない局面になり、手をこまねいていては抑え込まれてしまう羽生三冠が、森内陣をこじ開けに掛る。対する森内名人も鉄板の受けで羽生の攻撃を跳ね返す構え。押し合いへし合いの長期戦の果て、ついに森内名人の網を突き破った羽生名人が勝利を挙げた。
森内名人の守備網のほころびを修復する力は恐るべきものを感じたが、後手番での大熱戦での勝利が大きく、森内名人のダメージも大きかった。
第2局(その1、その2)は、先手の羽生三冠が奇襲ともいえる「鎖鎌銀」を採用。激しい将棋となったが、森内名人が二枚角の利き筋の先の羽生陣に銀を打ち込む強打を放つ。羽生三冠の「鎖鎌銀」に対抗するかのような「ハンマー投げ」のような銀打ちである。
しかし、これは名人らしくないやや短気な指し手。さらに、その後の「筋」で突き捨てた△4五歩を羽生三冠に堂々と取られ、逆用された形となり、形勢を損じてしまった。この後、羽生三冠が最短の寄せを見せ快勝。
第3局(その1、その2)は、後手の羽生三冠が5三銀右急戦矢倉を選択し、昨年の竜王戦で渡辺竜王の新手「香損定跡」を採用した。
長考の末、攻撃陣の連携を強め力を貯めた角を打つが、羽生三冠曰く「つまらない展開」にしてしまったそうだが、森内名人がやや不用意についた4筋の歩突きを利用し、敵陣を乱しつつ仕掛けに成功、あとは穴熊の固さ(遠さ)を活かして勝ち切った。
望外の3連勝だったが、初戦の後手番の大熱戦を制した時点で、上述した羽生三冠の決意や好調さを考えると、4連勝もあり得ると思っていた。
とはいえ、森内名人の強さは、ここまで嫌というほど味わっていたので、4勝目を挙げるまで安心できない、喜べない。1敗でもしたら、一気に逆転されてしまうのではないだろうかと危惧もしていた。なので、出来れば……出来るならば、一気の4連勝、出来るだけ早く、4勝目を挙げてほしかった。
で、昨日の第4局。森内名人に圧力を掛けられて、細くて遅そうな攻めを強いられててしまう。「対森内戦の負けパターン」に陥ってしまったか……
そして、必死に先行する森内名人を追いかけるという展開。しかし、今回はいつもより差が少なく、森内名人の足取りも確かでなかった。夕食休憩時での残り時間も少なかった。
終盤は、飛車捨ての「詰めろ飛車取り」「詰めろ逃れの詰めろ」が飛び交う難解な局面が続いた。こうなると「羽生ペース」。時間を考慮するのは正道ではないが、残り40分(羽生三冠は1時間40分)で、羽生三冠相手に勝ち切るのは容易ではない(勝ち切れるのは竜王戦での渡辺竜王ぐらいか)。
20時18分、森内名人、投了。
3年間、心に掛っていたもやもやした霧が、晴れた。
(第4局の詳細は、後日書きます)
3年前、3連敗後に3連勝を返したものの、最終局に敗れ失冠した後、順位戦を圧倒的な勝率で挑戦権を得たが2-4、1-4と、森内名人の厚い壁に跳ね返されていた。
「森内名人には相性が悪いなあ」「(森内名人は)名人戦は強いなあ」という思いが、昨期は完膚なきまで叩き伏せられ「勝てる気がしない」とまで至ってしまった。
羽生三冠が不調なのかというと、そうではなく、その後の棋聖、王位、王座では強さを発揮している。なので、「羽生三冠が力を出し切っていない」あるいは「力を出させてもらえない」という感触はあるものの、「名人戦での森内、竜王戦での渡辺に、真剣勝負では勝たせてもらえない」と言われると反論はできない。
そして今期の名人戦で四度敗れるとなると、もはや「森内>羽生」という歴史的認識の烙印を押されてしまう。もちろん、勝負の世界、勝ち負けの結果に目を背けずに認めなければならないが、あまりにも辛い。まさに「負けられない戦い」であった。
これは全くの憶測だが、当の羽生三冠も今期の名人戦には強い決意を持って臨んでいるように感じられた。順位戦が独走状態になりつつあった昨年末辺りから、名人戦を意識した戦型を選択しているような気がする。名人戦で使える戦型や局面を模索しつつ、森内名人に戦型を絞られない(手の内を悟られない)指し回しをしているような気がしてならなかった。(もちろん、「羽生三冠は目前の将棋をおろそかにする筈がない」ことは、言い切っておかねばならない)
11月21日の王将リーグ5回戦から年度末までの22戦16勝6敗、.727。
6敗の内訳は、棋王戦敗者復活戦決勝の永瀬戦は矢倉の定跡の確認(棋王戦本戦でも同戦型で永瀬に敗れており、さらに王将戦でも同戦型を試し、分かれは良かったが寄せで判断を誤り敗退している)。また順位戦の深浦戦は、あっけなく土俵を割っている。
そして、4敗は王将戦での渡辺戦(●●○○●○●)。
この7番勝負、対戦相手の渡辺二冠の印象は「第3局からペースが上がってきた」というもの。残念ながら王将戦敗れたものの、この王将戦や他の棋戦の指しっぷりから、「羽生三冠が好調」という感触があり、今期の名人戦は互角以上の戦いはできるはずという自信?はあった。
そして第1局。序盤からのっぴきならない局面になり、手をこまねいていては抑え込まれてしまう羽生三冠が、森内陣をこじ開けに掛る。対する森内名人も鉄板の受けで羽生の攻撃を跳ね返す構え。押し合いへし合いの長期戦の果て、ついに森内名人の網を突き破った羽生名人が勝利を挙げた。
森内名人の守備網のほころびを修復する力は恐るべきものを感じたが、後手番での大熱戦での勝利が大きく、森内名人のダメージも大きかった。
第2局(その1、その2)は、先手の羽生三冠が奇襲ともいえる「鎖鎌銀」を採用。激しい将棋となったが、森内名人が二枚角の利き筋の先の羽生陣に銀を打ち込む強打を放つ。羽生三冠の「鎖鎌銀」に対抗するかのような「ハンマー投げ」のような銀打ちである。
しかし、これは名人らしくないやや短気な指し手。さらに、その後の「筋」で突き捨てた△4五歩を羽生三冠に堂々と取られ、逆用された形となり、形勢を損じてしまった。この後、羽生三冠が最短の寄せを見せ快勝。
第3局(その1、その2)は、後手の羽生三冠が5三銀右急戦矢倉を選択し、昨年の竜王戦で渡辺竜王の新手「香損定跡」を採用した。
長考の末、攻撃陣の連携を強め力を貯めた角を打つが、羽生三冠曰く「つまらない展開」にしてしまったそうだが、森内名人がやや不用意についた4筋の歩突きを利用し、敵陣を乱しつつ仕掛けに成功、あとは穴熊の固さ(遠さ)を活かして勝ち切った。
望外の3連勝だったが、初戦の後手番の大熱戦を制した時点で、上述した羽生三冠の決意や好調さを考えると、4連勝もあり得ると思っていた。
とはいえ、森内名人の強さは、ここまで嫌というほど味わっていたので、4勝目を挙げるまで安心できない、喜べない。1敗でもしたら、一気に逆転されてしまうのではないだろうかと危惧もしていた。なので、出来れば……出来るならば、一気の4連勝、出来るだけ早く、4勝目を挙げてほしかった。
で、昨日の第4局。森内名人に圧力を掛けられて、細くて遅そうな攻めを強いられててしまう。「対森内戦の負けパターン」に陥ってしまったか……
そして、必死に先行する森内名人を追いかけるという展開。しかし、今回はいつもより差が少なく、森内名人の足取りも確かでなかった。夕食休憩時での残り時間も少なかった。
終盤は、飛車捨ての「詰めろ飛車取り」「詰めろ逃れの詰めろ」が飛び交う難解な局面が続いた。こうなると「羽生ペース」。時間を考慮するのは正道ではないが、残り40分(羽生三冠は1時間40分)で、羽生三冠相手に勝ち切るのは容易ではない(勝ち切れるのは竜王戦での渡辺竜王ぐらいか)。
20時18分、森内名人、投了。
3年間、心に掛っていたもやもやした霧が、晴れた。
(第4局の詳細は、後日書きます)