前々から、疑問があった種目だが………
インタビューでの上村選手の言葉
「こんなに何本も滑れるオリンピックは今回が初めてだが、体力が持つか、最後まで良い滑りができるかということは考えず、全力で滑った。
点数は点数。また4番だった。メダルは取れなかったが、攻めて滑りたいという思いで3本全部滑れたので清々しい。
自信を持ってスタートに立って、目の前のコースで最大のパフォーマンスで滑るということが私の理想だったが、今日はそれがたくさんできたので嬉しい。
今日は泣いたり笑ったりで忙しかった。メダルが取れるか取れないとかのギリギリのところに、また戻ってこれた。何回も滑れたことが嬉しい。今回が最後だと思っているので、オリンピックの思い出が良い思い出で終わる。メダルはないが頑張ってよかった」
「達成感マックスです」
清々しさマックスのインタビューである。
メダルを取れなかった無念、採点への不満もあったはずで、それを奥に仕舞い込んだ言葉であろう。
おそらく、「全力で滑り切る」「責めて滑る」「点数は点数(順位は順位)」「オリンピックという舞台で滑る喜び」「これが最後」「良い思い出にする」という思いを込めて協議に臨んだのだろう。
それがインタビューで言葉になった。
残念な順位だが、このようなコメントが言える彼女は、今後も幸せな人生を送れるだろう(送ってほしい)。
さて、種目としてのモーグルの公平性と上村選手の成績の妥当性を考えてみる。
Ⅰ得点配分
ターン点 満点15.0(全体の50%)
エア点 満点7.50(全体の25%)
スピード点 満点7.50(全体の25%)
まず、この得点構成が疑問。
スポーツには大きく分けて、①タイムや距離を競う競技(陸上競技、競泳、自転車、アルペンスキー、クロスカントリーなど)、②強さや得点を競う競技(レスリングやボクシングなどの格闘競技、球技など)、③技の完成度、芸術度を競う競技(採点競技)(体操、新体操、シンクロナイズドスイミング、フィギュアスケートなど)に分けられる。
もちろん、複数の要素を含む競技や、類別しにくい競技もある。まあ、それは置いておくことにして、モーグルについて考えてみる。
モーグルは①と③の要素がある。体操やフィギュアは③に挙げたが、厳密に言えば、技の採点基準にはその回転数や高さなどがあり、主観だけの採点ではない。ただ、フィギュアの場合、主観が左右する振幅が大きいため、よく問題が起きている。
モーグルの場合、ターン点とエア点が採点要素で全体の75%を占めている。タイムを競うものの、採点(主観)が大きく作用する種目と言える。
Ⅱ矛盾する要素
ここで注目したいのは、モーグルは①タイムを競う競技であること。タイムを競いながら採点もするという競技は稀である(他に例を挙げられませんが、ありましたら教えて下さい)。
タイムと技術・美技度は相反することが多い。モーグルで言えば、高いエアや難度の高いエアは、技自体タイムが掛かるし、着地も難しいので素早く滑りに入ることも至難である。大きな矛盾である。
Ⅲ方向転換したターンの採点基準
< 採点基準・要素 >は
[フォールライン]
スタートラインからゴールラインを垂直に結ぶライン(コース)を一直線に
滑り降りること
[カービングターン]
雪面コンタクトされたカービングターンを行うこと
スキーにおけるターン技術の中で最も重要な要素
[コブの利用]
ターンをスムーズに行うためにコブを利用すること
[吸収]
雪面コンタクトしたカービングターンをするためにコブを吸収すること
[効果的な動作]
斜面状況に合わせたカービングターンを行うための動作をすること
[姿勢]
上体は常にフォールライン進行方向に向かっていること
滑走中の上半身は、上下左右に揺れることなく安定した常体であること
[ストックワーク]
ターンをするための補助としてバランスよく利用すること
[攻撃性]
自身の限界に挑む積極性のこと
[コントロール]
全ての動作を自身がコントロールして滑り降りること
となっている。
[カービングターン][コブの利用][吸収][効果的な動作][攻撃性]などは、似ていたり、逆に相反していたり、抽象的であったりと、正直言ってよく分からない。
上村選手のターンは、「こぶに果敢に挑み、それを膝のクッションなどで制する高度な技術」と評価された。しかし、「こぶを避けて雪面を舐めるように滑る」技術が評価されるようになった(以前はマイナス要素だった)。
これは、かなりの方向転換である。フィギュアスケートで「高く飛ぶ」か「遠く飛ぶ」かの基準よりも大きな違いである。
では、「上村選手もその基準に適ったターンに切り替えればいい」という考えも成り立つが、長年培ってきた技術をおいそれと変えられるものではないし、切り替えるのは今までの彼女のモーグルを否定することにもなる。今回、上村選手のターン点が低かったのはこういう事情があったのだが……
Ⅳ試技順に左右される採点
「最初に試技する選手の採点は辛くなる」……体操競技でもよく見られる現象である。
一級の審判としても、物理的に採点するのは難しく、最初の試技者の演技を基準にするのが通常である。最初の試技が素晴らしいモノであって、その時に満点に近い採点をしてしまうと、後にもっと素晴らしい試技がされると天のつけようがなくなってしまう。
なので、様子見(基準)としてやや低めに点数を付ける傾向が強い。ただ、どうしても試技が後になるほど、後に素晴らしい演技が出る回数や可能性が低くなるので、高得点をつけやすくなる。
また、何度も高難度の技を観ているので、最初の試技に付けた基準よりも甘くなってしまいがちである。
今回の上村選手は最初の滑走であった……。
今回は、すべての点において上村選手に不利に働いた。
タイムを争う競技なのに、主観が75%を占める種目。これが、順位に幅を持たせてしまった。
エアの難易度とタイムが相反することには目を瞑るとして、ターン点を廃止してはどうだろうか。
コブを制して速く滑ることこそターンの技術であるのだから、採点は要らないと思う。
インタビューでの上村選手の言葉
「こんなに何本も滑れるオリンピックは今回が初めてだが、体力が持つか、最後まで良い滑りができるかということは考えず、全力で滑った。
点数は点数。また4番だった。メダルは取れなかったが、攻めて滑りたいという思いで3本全部滑れたので清々しい。
自信を持ってスタートに立って、目の前のコースで最大のパフォーマンスで滑るということが私の理想だったが、今日はそれがたくさんできたので嬉しい。
今日は泣いたり笑ったりで忙しかった。メダルが取れるか取れないとかのギリギリのところに、また戻ってこれた。何回も滑れたことが嬉しい。今回が最後だと思っているので、オリンピックの思い出が良い思い出で終わる。メダルはないが頑張ってよかった」
「達成感マックスです」
清々しさマックスのインタビューである。
メダルを取れなかった無念、採点への不満もあったはずで、それを奥に仕舞い込んだ言葉であろう。
おそらく、「全力で滑り切る」「責めて滑る」「点数は点数(順位は順位)」「オリンピックという舞台で滑る喜び」「これが最後」「良い思い出にする」という思いを込めて協議に臨んだのだろう。
それがインタビューで言葉になった。
残念な順位だが、このようなコメントが言える彼女は、今後も幸せな人生を送れるだろう(送ってほしい)。
さて、種目としてのモーグルの公平性と上村選手の成績の妥当性を考えてみる。
Ⅰ得点配分
ターン点 満点15.0(全体の50%)
エア点 満点7.50(全体の25%)
スピード点 満点7.50(全体の25%)
まず、この得点構成が疑問。
スポーツには大きく分けて、①タイムや距離を競う競技(陸上競技、競泳、自転車、アルペンスキー、クロスカントリーなど)、②強さや得点を競う競技(レスリングやボクシングなどの格闘競技、球技など)、③技の完成度、芸術度を競う競技(採点競技)(体操、新体操、シンクロナイズドスイミング、フィギュアスケートなど)に分けられる。
もちろん、複数の要素を含む競技や、類別しにくい競技もある。まあ、それは置いておくことにして、モーグルについて考えてみる。
モーグルは①と③の要素がある。体操やフィギュアは③に挙げたが、厳密に言えば、技の採点基準にはその回転数や高さなどがあり、主観だけの採点ではない。ただ、フィギュアの場合、主観が左右する振幅が大きいため、よく問題が起きている。
モーグルの場合、ターン点とエア点が採点要素で全体の75%を占めている。タイムを競うものの、採点(主観)が大きく作用する種目と言える。
Ⅱ矛盾する要素
ここで注目したいのは、モーグルは①タイムを競う競技であること。タイムを競いながら採点もするという競技は稀である(他に例を挙げられませんが、ありましたら教えて下さい)。
タイムと技術・美技度は相反することが多い。モーグルで言えば、高いエアや難度の高いエアは、技自体タイムが掛かるし、着地も難しいので素早く滑りに入ることも至難である。大きな矛盾である。
Ⅲ方向転換したターンの採点基準
< 採点基準・要素 >は
[フォールライン]
スタートラインからゴールラインを垂直に結ぶライン(コース)を一直線に
滑り降りること
[カービングターン]
雪面コンタクトされたカービングターンを行うこと
スキーにおけるターン技術の中で最も重要な要素
[コブの利用]
ターンをスムーズに行うためにコブを利用すること
[吸収]
雪面コンタクトしたカービングターンをするためにコブを吸収すること
[効果的な動作]
斜面状況に合わせたカービングターンを行うための動作をすること
[姿勢]
上体は常にフォールライン進行方向に向かっていること
滑走中の上半身は、上下左右に揺れることなく安定した常体であること
[ストックワーク]
ターンをするための補助としてバランスよく利用すること
[攻撃性]
自身の限界に挑む積極性のこと
[コントロール]
全ての動作を自身がコントロールして滑り降りること
となっている。
[カービングターン][コブの利用][吸収][効果的な動作][攻撃性]などは、似ていたり、逆に相反していたり、抽象的であったりと、正直言ってよく分からない。
上村選手のターンは、「こぶに果敢に挑み、それを膝のクッションなどで制する高度な技術」と評価された。しかし、「こぶを避けて雪面を舐めるように滑る」技術が評価されるようになった(以前はマイナス要素だった)。
これは、かなりの方向転換である。フィギュアスケートで「高く飛ぶ」か「遠く飛ぶ」かの基準よりも大きな違いである。
では、「上村選手もその基準に適ったターンに切り替えればいい」という考えも成り立つが、長年培ってきた技術をおいそれと変えられるものではないし、切り替えるのは今までの彼女のモーグルを否定することにもなる。今回、上村選手のターン点が低かったのはこういう事情があったのだが……
Ⅳ試技順に左右される採点
「最初に試技する選手の採点は辛くなる」……体操競技でもよく見られる現象である。
一級の審判としても、物理的に採点するのは難しく、最初の試技者の演技を基準にするのが通常である。最初の試技が素晴らしいモノであって、その時に満点に近い採点をしてしまうと、後にもっと素晴らしい試技がされると天のつけようがなくなってしまう。
なので、様子見(基準)としてやや低めに点数を付ける傾向が強い。ただ、どうしても試技が後になるほど、後に素晴らしい演技が出る回数や可能性が低くなるので、高得点をつけやすくなる。
また、何度も高難度の技を観ているので、最初の試技に付けた基準よりも甘くなってしまいがちである。
今回の上村選手は最初の滑走であった……。
今回は、すべての点において上村選手に不利に働いた。
タイムを争う競技なのに、主観が75%を占める種目。これが、順位に幅を持たせてしまった。
エアの難易度とタイムが相反することには目を瞑るとして、ターン点を廃止してはどうだろうか。
コブを制して速く滑ることこそターンの技術であるのだから、採点は要らないと思う。