英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

名人戦第4局 その4 「辛抱と過激」

2011-05-21 17:10:34 | 将棋

 図は▲5四歩に△4二銀と引いた局面。
 △5四同銀と取ると、▲7四飛の十字飛車の筋があって後手陣が持たない故の辛抱だが、これは辛い。
 この5三の銀はわざわざ一手を掛けて出た銀なので、その手が完全に無駄というよりマイナスになってしまった。単純に言うと、△5三銀▲5四歩△4二銀と指したことになる。結果的に後手の指し手はゼロ、先手は▲5四歩の拠点と▲2七桂の攻めの継続の大きな2手。
 もちろん森内九段もこの大損は承知の上の辛抱。しかし、すごい辛抱で、私なら△5四同歩と取って、簡単に散っていくであろう。

 というわけで、第4図では先手の楽勝ペースと見ていた。何しろ5筋の利かしが入り、2筋も制圧し、好きなタイミングで▲2三成銀と金を取れる。
 しかし、この後………


 第5図、控室の研究では▲4九歩が有力で、以下△3七馬▲7三△9二飛▲8二と△同飛▲7一飛成でよい。後手は2六の銀がお荷物で、いつでも▲4九歩や▲4九香が利くのが痛い(馬筋が逸れれば、銀が只になる)。

 ところが、羽生名人は▲2三成銀△同玉▲2六飛△同馬▲2四金(第6図)と過激に決めに行く。

 第6図、先手の攻め駒は盤上に2四の金と6三のと金、2五の歩は一応拠点。あと持ち駒の銀、あとは歩が4枚。金、銀、と金で3枚、あと2五の歩と持ち歩4枚で1枚分になるかどうか。計4枚弱、「3枚の攻めは切れ、4枚の攻めは切れない」と言う。持ち駒に金がないのも不安……大丈夫なのか?
 第6図以下、△3二玉▲4三歩。この▲4三歩が厳しく、△3三銀とかわさなければならないので寄せ切れそうか?
 ▲4三歩時点での中継サイトの解説欄には
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△同銀なら▲3四歩が厳しい。「△3三銀なら▲3四銀ですね」と阿久津七段。しかし、そこから△3四同銀▲同金△3三飛と頑張ると?
「ちょっと、こんなに派手に行かなくてもよかったと思うんですけど」と阿久津七段。「なんか、(森内さんが)さっきよりも考えている感じの表情ですね」と松尾七段。
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 実戦も、研究通り進行する。▲3四金の時点でサイト中継で
「東京・将棋会館では渡辺竜王が△3三飛で寄らないと解説しているという。逆転の可能性が出てきたか」

 そして△3三飛(第7図)の局面が出現!

 サイト解説は
「あっ、打った」と声が上がる。「これは相当おかしい」とも。事件が起こったか。先手が下手な攻め方をすると入玉されてしまう恐れがある。
20時3分、羽生が左手で頭をかいた。


 一瞬、目眩がした。
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名人戦第4局 その3 「同じ趣旨で大きな違い」

2011-05-21 14:28:25 | 将棋

 第2図より△1四香(最善手と考えられる)とせず、森内九段は△5三銀。この手は後手飛車の横利きを通しつつ、先手飛車の捌きを押さえる手厚い手であるが、前記事で書いたように先手飛車の捌きは現時点では怖くないので、1四の歩を払う方が急務であったようだ。
 先手としては、足掛かりの1四の歩を残したまま▲2七桂と攻めの継続を図れたのは大きかった。

 第2図より△5三銀▲2七桂に森内九段は△2六銀とかわしたが、控え室では角道を遮りながら中央へ駒を進める△4六銀が本命とされていた。△4六銀に▲4六同角△同成桂△同飛の2枚換えが気になるが、直後に△3七馬の飛車桂両取があるので大丈夫。 △2六銀は2枚換えの筋を残しておくより、△2六銀とかわして1八の香を押さえておく手で、無理のない手であると言える。
 問題は次の▲1五桂に△1七歩(第3図)と打った手だった。

 この手では△3五歩とすべきだった。△1七歩も△3五歩も香の利きを止めるか角の利きを止めるかの差はあるが、端攻めの緩和を図る趣旨では同じ。ただ、△3五歩は角の利きを止めただけなのに対して、△1七歩は香取りや桂取りになっていて効率は良さそうだ。
 しかし、△1七歩以下▲1三銀△3一玉▲2三桂成△同金▲2四銀成と進み、森内九段は愕然とすることになる。
 まず△1七歩の場合、直接1三に利いている数が2枚なので(△3五歩と止めれば1八の香の利きは先手の1五の桂が遮っている1枚)、▲1三銀と打ち込む手が生じている。ただ、本来ならこういった類の駒を打ち込む手は取らずにかわせば打った駒が空振りになることが多い。
 ところが、本局の場合、▲1三銀△3一玉に▲2三桂成と捨てて△同金に▲2四銀成とする手が成立してしまった。金取りの先手になっており、角道が強力で2筋1筋は先手が制している。さらに、玉が下段に落とされたので、後手の主張であった玉上部の厚みが生きてこない展開となってしまったのだ。
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