英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

名人戦第4局 その2 森内九段の用意周到な研究

2011-05-20 17:43:10 | 将棋

 第1図は、1日目の最終手(封じ手)が指された局面。封じ手が明かされるのが2日目の朝なので、気分的には2日目の初手と言った方がピンとくる気がします。
 本局の進行は最近では珍しく、後手は△8五歩ではなく、△9五歩と突いて△9三桂~△8五桂の余地を残して、穴熊を牽制するのが多いようだ(昨年の竜王戦▲羽生-△渡辺戦)。

 封じ手は①▲1四歩(実際の封じ手)の他、②▲6四歩、③▲7五歩が有力と見られていました。封じ手予想クイズの得票数は②▲6四歩167票、①▲1四歩154票、③▲7五歩120票の順でした。
 ③▲7五歩には△5六歩が角道を通しながら、後に△5七歩成を見せて味が良いので、角道の打診(▲6四歩に同歩なら角道が止まる)をする▲6四歩が有力(①の▲1四歩の前にも利かしておきたい気もする)だと思っていた。
 しかし、②▲6四歩はその反面、相手に歩を渡す、さらに、△6五歩と伸ばされると突き捨てが逆用された感があるので、手過ぎのきらいもある。
 ともあれ、封じ手の▲1四歩と指された第1図では、△2七桂成が有力と見られていた。以下▲5八飛△6九銀▲6八飛△7八銀成▲同飛(参考図1)が想定されていた。

 類似局は2009年2月のA級順位戦▲木村八段-△深浦王位(当時)で、この時は▲6四歩△同歩を利かせていた。以下は6~9筋でもみ合うような訳のわからない戦いが続いている(木村八段の勝ち)。
 解説の広瀬王位は△6九銀の割打ちを打たせる参考図1の先手の手順に抵抗を感じるらしく、「後手持ち」のニュアンスだった。穴熊の名手の形勢判断なので信憑性は高い。
 しかし、先手の陣形が弱体化しているのは間違いないが、その程度が良くわからない。もしかしたら意外に抵抗力があったり、詰めろが掛かりにくいという穴熊特有の遠さ(懐の深さ)を残しているのかもしれない。「穴熊の弱体化+金銀交換の損」と「先手の持ち駒に銀がもう1枚加わった戦力の増加」で釣り合いが取れているのかもしれない。

 さらに一見ソッポの2七の成桂の存在もカギを握っている。先手の主張は端攻めだが、この成桂は先手の端攻めの拠り処の香に圧力をかけているうえ、先手の攻めをかいくぐって上部に脱出する際に2六の地点に駒の利きがあるのはかなりのプラスのはず。
 参考図1は勝率5割を切る後手にとっては悪くない展開だと思う。森内九段自身も著書にも「第1図の▲1四歩には△2七桂成が有力」と記している。
 ところが、後手の森内九段の指し手は△4七桂成。この手は中央に駒が行くので自然な指し手である。ただ、1八の香取りになっていないので、3六に飛車をかわすことができる。以下△3五銀▲6六飛△8四角▲7五歩△同角▲7六飛△4八角成▲7四飛△7三歩▲7六飛(第2図)と進む。

 さて、第2図、後手の馬、銀、成桂が厚く、先手の端攻めの角、香が抑え込まれ、飛車も直接端攻めに参加できない状態。先手の攻め筋としては、①▲2七桂からこじ開ける、②▲6四歩△同歩▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩▲6四飛と飛車を捌く(実はこの筋はうまくいかない)、などがあるが、手番は後手。
 なので、先手の拠り所のひとつの歩を払う△1四歩が有力。この手には手段②がありそうだが、6四歩△同歩▲7四歩の時に△8四飛と当たりを避けておけば、▲7三歩成には△7五歩があり受かっている。
 そこで、先手も単純に行けないので、▲6四歩△同歩▲7四歩△8四飛にネット中継の解説では
「(1)▲7五銀△8三飛▲6四銀△7四歩▲同飛△7三歩▲7六飛△6八歩は「あまり自信がないですね」と羽生。
(2)▲2七桂△7四歩▲3五桂△同歩▲同角△7五歩▲3六飛△3四歩▲1三銀△3一玉▲7九角△5八馬▲2四歩△5七成桂▲2六飛と激しい攻め合いも検討された」
とある。
 さらに、手段②の▲6四歩に後手が素直に応じて、②▲6四歩△同歩▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩▲6四飛と進んでも、△6二歩と謝られてみると、意外に二の矢が続かない。手筋の▲7二歩は△5三銀で受かってしまう。

 とにかく第2図は後手が良いようだ。名人やA級棋士は、後手陣の隙間をこじ開けて、穴熊の利点を生かしての強引な攻めを通すこともできるかもしれないが、厚みが大好きな私は先手を持って勝つ気がしない。
 著書で記した時、或いは、普段の研究で、この変化(△4七桂成)は有力だと思っていたのではないだろうか。だから、穴熊を牽制する△9五歩型ではなく、△8五歩型を選び、この局面に誘導したのではないだろうか。
 森内九段は羽生名人と対する時、主流手順を外し、それなりに戦えそうな変化を深く掘り下げ研究し、誘導している。誘導しないまでも、そういった変化のポケットをたくさん用意している気がする(第3局のゴキゲン中飛車に対する角道止める作戦)。しかも、事前に羽生名人が誘導しそうな戦型や局面をいくつも想定し、そのそれぞれに、作戦を準備していて、序盤に時間を使わないようにしている。
 対峙している羽生名人は、森内九段の用意周到な研究の圧力を感じているのではないか?

 実戦は△1四歩ではなく、△5三銀あった。この手は手段②飛車の捌きを防ぎつつ、場合によっては△6五銀と出て先手の飛車を抑え込む(いじめる)含みもあり、森内九段らしい手である。

 【続く】
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする