[用例研究 152] 〈主語に條件②-形式主語の場合〉
不定詞や-ing form、節などを主語とする場合、先頭に置くよりは、通例it(preparatory subject)を假に先行させておき、後に眞主語となる不定詞や-ing form、節を置くはうが好まれます。
眞主語である不定詞や-ing formの部分に假定の條件が込められてゐる場合にも上記のかたちになるので、注意が必要です。その解釋に際しては、主節の動詞がヒントになります。〈助動詞の過去形+動詞の原形〉〈助動詞の過去形+have+過去分詞〉が使はれてゐれば、假定法ではないか、どこかに條件がひそんでゐないか、と考へてみると良いでせう。
□參考例文: 現實には散歩をしてゐない人に助言してゐる例です。
152.1 It would be better for you to take a short walk every day.
あなたが毎日すこし散歩すれば、健康に良いでせうに。
It would be better if you took a short walk every day.
□參考例文: 假定法過去完了の例です。過去の事實としては「言つてしまつた」のですが、今になつて「言つてゐなければなあ」と非難・後悔してゐます。不定詞部分は、下の例文のやうに完了不定詞にすることも可能です。
152.2 It would have been better to leave it unsaid.
それは言はないでゐたはうが良かつたでせうに。
It would have been better to have left it unsaid.
□參考例文: -ing form(動名詞)が條件を示す例です。
152.3 It wouldn't be any good trying to catch the bus.
そのバスに乘らうといくら頑張つても無駄でせう。
□參考例文: 文脈から讓歩の意味合ひが(微妙にですが)感じられる例です。
152.4 It would be difficult to imagine modern life without the telephone.
電話のない現代生活なんて想像するのも難しいでせう。
[用例研究 152] 〈主語に條件②〉
(PEANUTS By Charles M. Schulz)
1 For me? Thank you very much.
2 “For the round-headed kid .. Merry Christmas.”
3 It would be nice to have a dog who remembered your name.
[解説]
2
・round-headed: 例へば talented (才能のある)のやうに、名詞に –ed を付し、「~を持つた」などの意味の形容詞をつくります。ここでは前に語を置きハイフンでつないで一語とし、さらに詳細な説明としてゐます。round-headed は「丸い頭を持つた」「丸頭の」といつた意味になります。類例としては blue-eyed(青い目の)、broken-hearted(失意の)、lion-hearted(勇猛な)、a good tempered man(やさしい氣性を持つた人)、a three legged table(三本脚のテーブル)、a double-headed snake(双頭の蛇)など。
3
・It would be nice to have a dog~: preparatory it(ここでは形式主語)が使はれ、眞主語は不定詞部分です。その to have a dog~に條件が込められてゐて「もし~の犬を持つてゐれば」といふ意味を傳へます。would be は假定法過去の歸結節のかたちであり、「(現在もし~なら)…であらう(に)」といふ意味になります。現在の事實とは異なる事態を設定し、その結果としての思ひを表現してゐます。
現在の起こり得る設定として條件-歸結を表現するなら、次の例文のやうに直説法で記します。到着時刻は相談中であり、どうなるかはまだ決まつてゐません。
□參考例文: 直説法の動詞の例です。
152.5 It will suit me best for you to arrive at about ten o'clock.
あなたが10時頃到着すると私には最も好都合です。
・remembered: 前の would be で假定法過去を用ゐてゐるため、そのつづきで rememberedと過去形になつてゐますが、言及してゐるのは現在のことです(「自分の名前を覺えてゐる犬…」。
・your: 「總稱人稱」で、人一般を指します。ここでは「飼主の」「ぼくの」とも解せるでせう。
[意味把握チェック]
1 「ぼくに?どうもありがたう」
2 『丸頭の子へ..メリー・クリスマス』
3 「(飼主の/ぼくの)名前を覺えてゐる犬を持つてるといいだらうなあ」
[笑ひのポイント]
・For Charlie (Brown) とカードに記して欲しかつたのでせうが、さうはゆかず、「現實」は the round-headed kid です…このあたりは作者が創出した虚構世界での獨自の設定であり、Snoopy や Charlie Brown などのキャラクターが釀しだす微妙なユーモアをそのままに味はふことになります。
固有名詞により獨自の存在・個人として認識されるのではなく、外見的特徴や一般的な性質などで把握される「普通の人(ordinary people)」 の物足りなさや不滿、悲哀を下敷にした作品なのか、或は友人などに名前を覺えてもらへないことを残念に思ふこころもちを表現してゐるに過ぎないのか、或は Snoopyによる惡意の稀薄な揶ひのやうにも見えますが……獨自のキャラクター設定による subtle nuance を漂はせる作品であり、いくつかの解釋がありさうです。