「雷雨」(4)

  早くこの「雷雨」をでかさないと。私は来週はバレエ鑑賞の予定がてんこもりなのです。でも、演劇はセリフがあるから、やっぱり長くなってしまいますね。

  さて、繁漪と周萍が義理の親子の関係でありながら、その一線を踏み越えてしまったことがまず明らかになった。繁漪はいまだに周萍を愛しているが、周萍は今は四鳳を愛しており、繁漪とのことは「昔のあやまち」として片づけ、繁漪に対して冷たい態度をとる。周萍の繁漪に対する態度は、観ている側が思わず繁漪を気の毒に思うくらい身勝手なものであった。

  次に周萍の父親である周樸園と、四鳳の母親である魯侍萍(梅侍萍)とは、三十年前の昔、主人と妾の関係にあったことが明らかとなる。しかも侍萍は樸園の息子を二人までもうけていた。

  周樸園はかつて家の召使であった侍萍に手をつけ、樸園の息子である周萍もまた、召使である四鳳と恋に落ちている。父と息子が期せずして同じことを繰り返しているのだが、また、息子の周萍が繁漪を「昔のこと」とあっさり切り捨てる冷たさもまた、まぎれもなく父親の周樸園から受け継がれたものであることが明らかとなる。

  樸園はかつての愛人を目の前にしても、侍萍が自ら告白するまで分からなかった。侍萍はそれをなじる。「あなたは私の顔を見てもお分かりにならなかった。時間が経てばすぐに忘れてしまうのですね。」

  樸園は悔恨するどころか、逆に侍萍に問いつめる。「お前は何をしに来た?お前は誰の差し金でやって来たのだ?」 樸園は、侍萍が過去の醜聞を持ち出して自分をゆすりに来た、と思ったのである。だが侍萍は叫ぶ。「運命が!不幸な私の運命が、私をここにやって来させたのです!」

  樸園は焦りながらも、冷たく言い放つ。「三十年も前のことなのに、今さらここへやって来るとはな!あんな昔のことを、どうして今になって持ち出す必要があるのだ?」 この樸園の言葉は、息子の周萍が繁漪に投げかけた言葉とそっくりである。

  侍萍は強い口調で言う。「私はそうしなければならないのです!私は三十年もの間、ずっと苦しんできました。私にあるのは恨みと後悔だけです。私はもう一生、あなたには会わないものと思っていました。それなのに、まさか私の娘がこの家で働いていたなんて!私はかつてあなたにお仕えしていました。今は私の娘が、あなたの息子たちにお仕えしているのです。・・・これは私に下された天罰です!」 侍萍は泣き崩れる。

  樸園は侍萍をなだめる。「私の心が死んだとは思わないでくれ。この部屋の家具は、お前がいたころとそっくり同じに並べてある。お前を偲ぶためだった。それに、お前は萍を産んだために病気になったとき、窓を開けることを好まなかった。私は今もそのとおりにして、窓を開けさせないのだ。」

  これらはすべて、樸園にとって都合がよいだけの、自分勝手で楽な「償い」である。侍萍はかたくなな態度で「そんなことをおっしゃらなくてもけっこうですわ」と言う。

  すると樸園はホッとしたように言う。「そうか。では、我々の話し合いはこれで済んだな。問題は魯貴だが。」 侍萍は言う。「心配しないで下さい。あの人は何も知りません。」 

  ますます安心した樸園(←本当にやなヤツ)は、侍萍と一緒に出て行った自分の息子の消息を尋ねる。侍萍は静かに答える。「あなたの炭鉱で働いています。鉱夫の代表として、あなたにお会いするために門前で待っていますわ。」 樸園は愕然とする。「魯大海か!」

  樸園は「何か望みはあるか」と尋ねる。侍萍は悲しげな顔になって「萍に一目でいいから会わせて下さい」と頼む。ためらう樸園に、侍萍は「ご安心なさって。あの子の母親は死んだのです」と言う。生母だとは名乗り出ない、というのである。

  樸園は「いいだろう」と言うと、ソファーに腰かけ、机の上にあった小切手に金額を書き入れて侍萍に渡す。侍萍はそれを受け取ると、その場で破り捨てる。 

  そこへ突然、怒鳴りあう声が聞こえ、召使たちの制止を振り切って、魯大海が客間へ飛び込んでくる。大海は青くて短い上衣にズボンという中国服を着ている。当時の労働者階級の服装である。樸園は感慨深い面持ちで大海をしばらく見つめるが、やがて彼に「何の用だ?」と静かに尋ねる。

  魯大海は自分の父親が誰なのかは知らない。彼は激しい口調で言う。「とぼけるのはやめてもらおう。社長、あんたは我々労働者が提出した要求に応じるのか応じないのか?」

  そこへ周萍がやって来る。樸園はわざと「萍、ここにいろ」と命じ、侍萍に彼が周萍であることをさりげなく教える。侍萍は切ない表情で周萍をそっと見つめる。

  樸園は冷酷な炭鉱主の顔に戻る。「勢いだけでは交渉はできんな。」 魯大海は激しい口調で続ける。「そうやって時間を引き延ばして、いずれ金で片を付けようというのだろう。」 樸園は皮肉な表情を浮かべる。「彼に炭鉱からの電報を見せてやれ。」

  大海は電報を見て驚く。樸園はせせら笑う。「労働者たちは、すでに仕事に復帰したのだ。お前は労働者の代表のはずなのに、知らなかったのかね?」 大海は激怒する。「じゃあ、デモで警官隊に銃撃された仲間たちの死は無駄死にだったというのか!?」

  樸園は更に追い討ちをかける。「お若い大海君、君とともに労働者の代表だった、他の二人はどうした?・・・いいだろう、我々と労組との合意書を見せてやろう。」 大海は言う。「合意書?そんなものは、代表の署名がなければ無効だ。」 だが樸園は「よく見たまえ」と言って、合意書を大海に渡させる。大海は驚愕する。「あの二人の署名がある!?」 樸園は嘲笑して言う。「愚かな青年よ、経験もないくせに、ただ喚き散らしたって何の役にも立たんのだよ!」

  大海は激昂して一気に怒鳴る。「この恥知らずな資本家め!また金に物を言わせたな!」 樸園は冷たく言い放つ。「魯大海、君には私と話をする資格はもうないのだ。炭鉱は君をすでに解雇した。」

  侍萍は大海を止めようとするが、大海は次々と樸園に罵声を浴びせる。「お前らはいつも金だ。炭鉱で警官隊に労働者たちを射殺させたばかりか、俺は知っているぞ、お前はハルピンで橋の工事をしていたときに、わざと事故を起こして、多くの労働者を死なせたな!少ない額の賠償金でごまかして!」

  周萍は父親に対する大海の悪口雑言(とは限らないのだが)に耐え切れず、「この馬鹿者!」と叫んで大海を殴りつける。侍萍が悲鳴を上げる。周萍は召使たちに「こいつを殴れ!」と言いつける。召使たちは一斉に大海に殴りかかる。

  大海は殴られながらも「この強盗ども!」と罵るのを止めない。侍萍は泣きながら「やめて、やめて!」と言い、大海を庇おうとする。それを見た樸園は「殴るのをやめろ!」と叫ぶ。

  侍萍は泣きながら言う。「あなたたちは本当に強盗よ・・・あなたは萍、萍なのね・・・。」 樸園は思わず青ざめる。だが侍萍は「あなた・・・萍、なぜあなたは私の息子を殴るの・・・。」 周萍は「お前は誰だ?」と尋ねる。侍萍は「私、私はあなたの・・・」と言いかけるが、「あなたの殴ったこの男の母親です」と言って泣き崩れる。

  四鳳も心配そうな表情でこの様子を見ている。四鳳は「お母さん、行きましょう」と言い、侍萍の肩を抱きかかえ、兄の大海を促して周家から出ていく。第二幕が終わる(まだ第二幕かー!)。   
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