元・副会長のCinema Days

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「旅立ちの島唄 十五の春」

2013-07-06 12:49:07 | 映画の感想(た行)

 シンプルな構図の青春ドラマだが、シンプルな故に突き詰めれば大きな求心力を発揮する。しかも、南大東島という極上の舞台が用意されていて、鑑賞後の印象は格別だ。

 主人公は南大東島に住む中学三年生の優奈。地元の少女民謡グループのリーダーでもあるが、この島には高校が無く、卒業後は島を出なければならない。島で暮らしているのは家族の中で彼女と父親だけだ。兄は那覇で働いており、島にはめったに戻ってこない。姉は高校進学と同時に島を出たが、元々この島の出身ではない母は、姉に付き添うことを口実に逃げるように島を後にしている。優奈は両親がいつかヨリを戻してくれることを願いつつ、中学最後の学年を過ごす。

 誰しも子供から大人へのステップを上るものだが(まあ、トシ取っても頭の中は子供みたいな輩もいるけどね ^^;)、この映画のヒロインは生まれ育ったロケーションと“家庭の事情”により、世の中の相場からかなり早い時点で“大人”になることを義務付けられてしまう。通常ならば、親身になって面倒を見てくれるはずの父母は別居状態。兄と姉も自分のことで精一杯だ。加えて15歳で島を出て自立しなければならないことは“決定事項”でもある。

 このような設定だと主人公が捨て鉢になって道を誤ってしまう筋書きが用意されるのも当然だが、本作ではそうならない。考えてみれば、年若い登場人物が(逆境に負けて)道を踏み外すというプロセスには、その契機となる環境が付随しているものだが、この映画においてはそういう“後ろ向きのモチーフ”というものが介在する余地は無い。

 何しろ主人公をそそのかす悪い仲間は島には一人もおらず、それどころか地域総ぐるみで若いヒロイン達を見守り育てているのだから。そのため、主人公の成長物語をいわば不純物フリーで提示することが可能になっている。

 優奈の望みも、ドラスティックな“大人の事情”の前には無力で、また彼女の男友達も“家庭の事情”で挫折を余儀なくされる。そんな理不尽な境遇を受け入れた上で、毅然として明日を信じ、その想いを最後のコンサートでの別れの曲に託す場面は感動的だ。

 オリジナル脚本で挑んだ吉田康弘の演出は粘り強く、南大東島の豊かな自然と人々とを対比させる画面構成も見事だ。主役の三吉彩花は好演で、悩みつつも手探りで前へ進もうとする十代の姿を上手く表現している。前作「グッモーエビワン!」でも印象が良かったが、今回は歌や三線の演奏まで披露するなど芸達者なところを見せる。ルックス面でも正統派の美少女だし、今後の活躍が期待される。

 両親に扮しているのが小林薫と大竹しのぶというのも見逃せない。ことさら能動的な演技を仕掛ける場面は無いが、ドラマをしっかりと支える存在感はさすがだ。主人公が島を去るラストの哀切も忘れがたく、余韻は深い。観て損の無い佳編である。

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