元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「柳川堀割物語」

2014-06-27 06:33:56 | 映画の感想(や行)
 87年作品。題名のとおり福岡市柳川市の堀割の歴史と現状、それにまつわる人々の姿を描いたドキュメンタリー映画であるが、並の記録映画ではないことはスタッフの名前を調べればすぐわかる。製作が宮崎駿、監督が高畑勲。この二人については誰もがよく知っているだろうから、改めて紹介しない。彼らが作り上げた初めての実写映画である。

 映画はまず水路を行く小舟に備え付けられたカメラによって柳川の堀割とそこに住むいろいろな生物、水辺に住む人々の暮らしを紹介する。流れるようなカメラワークが印象的だ。現在、心地よい水辺環境として親しまれているこの水路は、かつて人々の生活をささえる重要な役割を担っていた。

 そして映画は堀割の生い立ちについての丁寧な説明をおこなう。筑後川の水を取り入れるために久留米・柳川両藩の争いがあったことなど、実に興味深い。柳川の水路がいかに市民生活に結び付いた合理的システムであるかも紹介される。しかもこの部分は得意のアニメーションを駆使して解説され、飽きさせない。



 70年代の列島改造の時代、柳川の水路は瀕死の状態だった。ゴミとヘドロで埋まり、ハエや蚊の発生源になっていた(“ブン蚊都市”という、有り難くないあだ名も付けられたらしい ^^;)。市当局は水路埋め立てを計画する。しかし、一人の市職員が立ち上がり、水路の浄化を呼びかけ、やがてそれは市民運動にまで発展する。ここがこの映画の本題だ。

 浄化運動と一言でいってもドブ川と化していた昔の水路の写真と現在の状態を比べるとそれが困難極まりないものであったことがわかる。この事実が、およそヒロイックにではなく、地道な調査と行動の結果、実現したということは、映画を観ても信じられないような、ひとつの小さな奇跡のようだ。奇跡は劇的なものの中ばかりではなく、こうした市井の人々にでも起こすことが可能なのだ。

 決して自然保護を声高に主張するだけのメッセージ映画ではない。視点はあくまでも水路と共に生きる柳川市民側にあり、自然をうまく取り入れた生活の素晴らしさがさりげなく強調される。そしてこの生活を保つために市民が不断の努力をおこなっていることも重要である。エコロジカルな生活はタダでは手に入らないのだ。

 もちろん、現在の柳川市は一見どこにでもある地方都市だし、水路の恩恵に浴しているのは水辺に住む一部の人々には違いない。それでもこの映画には感動する。宮崎駿と高畑勲の手による「風の谷のナウシカ」で、長老が“多すぎる火は何も生まない。水は100年かけて森を育てるのだ”と言うとおり、この作品は自然を破壊することで発展してきた日本に対し、実現したかもしれない“もうひとつの日本”を提示しているとは言えないだろうか。その意味で、この作品には「ナウシカ」の続編という側面もあるのかもしれない。

 映像が非常に美しい(カメラマンは「GO」などの高橋慎二)。水路とつき合う人々、“白秋祭”に集う人たちの表情の豊かさにも心を打たれてしまう。実に透明な美しさに満ちた映画だ。

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