元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フィギュアなあなた」

2013-07-13 06:35:15 | 映画の感想(は行)
 見終わって、結局は石井隆監督はデビュー作の「天使のはらわた/赤い眩暈」の世界から一歩も出られないのではと思った。本作もいろいろと今風なモチーフを採用していながら、着地点は「赤い眩暈」と同じである。

 もっとも、一般的に言えば決してワンパターンが悪いということでもなく、手を変え品を変えて観客を単屈させないように“変奏曲”を展開してくれるならば文句はない。しかし、どうもこの監督は作品ごとにヴァリエーションを付けることは苦手のようだ。

 大手出版社の編集部に勤めていた主人公の内山は、上司の失敗の責任を押しつけられて閑職に追いやられ、そのまま会社を辞めてしまう。再就職活動も上手くいかず、鬱々とした毎日を送る彼は、ある晩飲み屋でチンピラ相手にトラブルを引き起こす。



 チンピラどもから逃げるうちに、内山は廃墟のようなビルにたどり着くが、そこで人間そっくりに作られた等身大の少女フィギュアを見つける。そのあまりに精巧な作りに驚いていると、人形は突如として動きだし、追っ手どもを始末してしまう。彼はそのフィギュアを家に持ち帰り、勝手に心音(ここね)という名前を付け、一緒に暮らすようになる。

 是枝裕和監督の「空気人形」と似たような設定だが、あの映画同様に細部の練り上げ方が足りない。主人公は自分の殻に閉じこもりがちのオタク青年という設定らしいが、そう思っているのは作者だけで、観ている側は“これのどこがオタクなんだよ”と思ってしまう。

 職場ではけっこう自己を主張し、極度に内向的な人間には見えない。しかもオタクがオタクたる所以であるマニアックな趣味も持っていない。部屋には申し訳程度にフィギュアが何体か置かれているだけで、自分だけの世界を構築しているようなタイプとはとても思えない。せいぜい過剰に挿入されるモノローグぐらいで“どうだ、オタクっぽいだろう”と居直られても困るのである。

 斯様に主人公が感情移入しにくいキャラクターなので、そいつの周りでいくら超常現象(?)もどきの出来事が起ころうとも、こっちは“どうでもいい”と思ってしまう。人形との奇妙な共同生活にしても、大して面白いエピソードが展開されるわけでもない。



 そして終盤はやっぱり「赤い眩暈」の方法論の二次使用だ。ただしあの映画には観る者に共感を覚えさせるようなストレートな作劇と、マジメなドラマ運びがあった。しかしこの「フィギュアなあなた」にはそれがない。過去に何度も取り上げられて手垢にまみれたメソッドを、小手先の変化球で取り繕って見せたというのが実情だろう。

 だが、この映画は観る価値が無いのかといえば、そうではない。石井監督の前作「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」が主演女優の佐藤寛子の柔肌を堪能する映画であったように(爆)、本作はフィギュア役の佐々木心音のエロいボディを鑑賞するためのシャシンなのだ(笑)。彼女のカラダは実にワイセツで、イメージビデオがバカ売れしているのも頷ける。かと思えばチンピラ相手に大立ち回りを演じたり、空中バレエを披露してくれたりと、けっこう身体能力が高いのも見逃せない。

 主人公に扮する柄本佑は熱演だが、演出が上滑りしている分、空回りしている感が強い。あとのキャストは特筆するべきものなし。音楽担当はお馴染みの安川午朗だが、劇中に流れる「ラブ・ミー・テンダー」が印象的だ。もっとも同じく往年のナンバーである「テネシー・ワルツ」を使用した「赤い眩暈」との類似性が指摘されるので、諸手を挙げての評価は出来ない。

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