元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「愛する人」

2011-02-01 06:37:51 | 映画の感想(あ行)

 (原題:MOTHER AND CHILD)かなりの力作だが、感動するところまでは行かない。それはひとえにヒロイン像に対する洞察の浅さにある。主人公のエリザベスは生まれてすぐに養女に出され、30代後半になった今では弁護士として活躍しているが、養父母とも若い頃に別れてしまったため、家族のありがたさを全く知らない。そのためか他人を信用せず、性的な面でも自らの欲望のままに行動する。もちろん、相手がどうなろうと気にしない。

 演じるナオミ・ワッツは目を見張る熱演で、程度を知らない官能演技はもとより、撮影当時は妊娠中であった腹ボテ姿を躊躇無く曝している。しかし、困ったことにそれは上っ面のパフォーマンスに過ぎない。彼女がどうしてそんな屈折した人間に育ったのか、その理由をただ“そういう生い立ちだったから仕方がない”といったレベルで片付けてしまっている。

 もっと切迫したパッションが画面から滲み出るべきだと思うが、ひょっとして作者はこのキャラクターに共感もしておらず、理解するつもりもないのではないか。単に見た目が興味を惹くだけの素材でしかないように感じる。

 対して、もう一人のヒロインである彼女の母親カレンに対する描写は丁寧だ。生まれたばかりの娘は手放すハメになり、その後30年以上も結婚せずに年老いた母親を介護しながら暮らしてきた彼女は、無理矢理に娘を養女に出した母親を今でも許せない。そのせいで周囲と良好な人間関係を築くことが出来ず、好意を持って近付いてくる男にも過度に突っ慳貪な態度を取ったりする。

 カレンに扮したアネット・ベニングが好演で、心を開きたいのだが大きな屈託を抱えているため一歩踏み出せないキャラクターをうまく具現化させている。ただし、作り手はカレンに思い入れを持っていることは分かるものの、困ったことにエリザベスを始めとする他の登場人物の描写に力が入っていない。ケリー・ワシントン演じる養子を欲しがっている若妻の扱いもそうで、ラストの辻褄合わせのために用意したに過ぎない。

 監督は「彼女を見ればわかること」などのロドリゴ・ガルシアだが、製作総指揮のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの持ち味が大きく影響しているように思える。つまりは特定の素材に対する集中度は高いが、映画トータルとしての出来映えにはあまり配慮していないという点だ。とにかく、観賞後は釈然としないものが残る映画である。

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