元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「マルコムX」

2018-02-04 07:11:22 | 映画の感想(ま行)

 (原題:MALCOLM X )92年作品。黒人公民権運動活動家マルコムXの伝記映画で、監督はスパイク・リー。上映時間は3時間20分もある。観終わってみれば劇映画というより、そこそこよく出来たテレビの大河ドラマという印象しか受けない。製作費もかなりかかった大作には違いないが、今ひとつこちらに迫ってくるものがない。前評判が高かったものの、アカデミー賞の主要部門のノミネートから(主演男優賞を除けば)ことごとく無視されたのも、わかるような出来である。

 映画は、ロス暴動の引き金になったロドニー・キング事件のテレビ映像と、燃える星条旗がX字形になっていくタイトルバックで始まる。物語の前半での、ボストンのスラム街に住むマルコム(デンゼル・ワシントン)が、ギャングの大物に雇われてのし上がっていく過程がなかなか面白い。

 白人による黒人虐待により父を失った家庭事情も語られるが、それより黒人版のゴットファーザーを観ているような、娯楽作品としての魅力が画面を覆っている。特に、主人公が白人女性ソフィアと知り合うダンス・シーンの場面は素晴らしく、この躍動感はヘタなミュージカル映画もまっ青だ。

 刑務所に入り、ブラック・ムスリムのベインズの影響を受ける場面が見物といえるが、ベインズ自身が映画の創作であり、実在の人物ではない(実際には兄弟の影響でイスラム教に入信する)せいもあって、少し出来すぎの印象を受ける(ただ、辞書でホワイトとブラックの項を調べて差別の何たるかを知るシーンは、なるほどと納得させられる)。

 刑期を終えていよいよブラック・ムスリムの幹部として活躍する場面からは、歴史の教科書をそのままなぞったような展開である。話をなんとか最後まで持って行くために、師匠のエライジャ師の女性スキャンダルや、ケネディ暗殺に対する舌禍事件などの面倒なエピソードはサッと流し、国家権力との対立の図式やメッカへの巡礼で自分を取り戻すシークエンスも、突っ込んで描かれないままクライマックスの暗殺シーンに到ってしまうため、ドラマとして盛り上がらないまま終わってしまう感じだ。

 封切当時、映画の公開に先だってNHK・BS-2で放映されたマルコムXのドキュメンタリー番組で得られた知識以上には、何もこの映画は教えてくれない。要領よくまとまった映画だが、オリヴァー・ストーン監督の「JFK」のようにケレンとハッタリを駆使し映画独自の強引な仮説を“真実”としてデッチ上げる演出パワーで、観客を引きずり回すような興奮はほとんどない。映画本編より、これを観て、少しでも人種差別問題に対し関心を持つことが大切ではないかと思う。

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