オンエア中の大河ドラマの原作だが、まず本書の出来がどうこうと言うより、テレビドラマの脚本の冗長さを改めて感じてしまう。長編小説としてはコンパクトな長さであり、これを一年通した連続ドラマに“拡大”することは並大抵のことではないのは分かる。しかし、テレビ版は回りくどい描写が多い。
たとえば山本勘助が武田家に仕官するようになるまで、なぜにあのような分かりにくい手順を踏まないといけないのか不明だ。余計な登場人物も多すぎる。原作に出てこない勘助の兄だの想いを寄せた村娘だの、そんなのは必要ない。小説版に出てくるキャラクターをもっとテレビドラマなりに掘り下げるようなスタンスで臨むべきだった。
対してこの原作は単純明快。物語はサクサクと進み、一見登場人物の内面は軽く端折っているようだが、よく読むと必要最小限の行数で的確に各キャラクターの本質を掴んでいることが分かる。しかも、どれも冷たく突き放すようなことをせず、ポジティヴな視点を忘れてはいない。
そして物語の勘所、特に勘助が由布姫を失うシーンなどは文体のヴォルテージがグッと上がったと思わせるほど集中的に描かれる。さすがは井上靖、メリハリを付けた作劇には定評のあるところだ。クライマックスの川中島の決戦は少ないページ数ながらまるで情景が浮かんでくるような筆力で読者を引きずり込む。ラスト数行は感動的だ。
もちろんこの物語が史実そのままだとはとても言えないが、勘助が生きながらえて引き続き武田家をサポートしていたならばと思わずにはいられない。たぶん甲斐周辺の有名武将の何人かが確実にアンラッキーな目に遭い(笑)、歴史はほんの少し変わるかもしれない。そういうことに思いを馳せるのも歴史小説の醍醐味だ。
たとえば山本勘助が武田家に仕官するようになるまで、なぜにあのような分かりにくい手順を踏まないといけないのか不明だ。余計な登場人物も多すぎる。原作に出てこない勘助の兄だの想いを寄せた村娘だの、そんなのは必要ない。小説版に出てくるキャラクターをもっとテレビドラマなりに掘り下げるようなスタンスで臨むべきだった。
対してこの原作は単純明快。物語はサクサクと進み、一見登場人物の内面は軽く端折っているようだが、よく読むと必要最小限の行数で的確に各キャラクターの本質を掴んでいることが分かる。しかも、どれも冷たく突き放すようなことをせず、ポジティヴな視点を忘れてはいない。
そして物語の勘所、特に勘助が由布姫を失うシーンなどは文体のヴォルテージがグッと上がったと思わせるほど集中的に描かれる。さすがは井上靖、メリハリを付けた作劇には定評のあるところだ。クライマックスの川中島の決戦は少ないページ数ながらまるで情景が浮かんでくるような筆力で読者を引きずり込む。ラスト数行は感動的だ。
もちろんこの物語が史実そのままだとはとても言えないが、勘助が生きながらえて引き続き武田家をサポートしていたならばと思わずにはいられない。たぶん甲斐周辺の有名武将の何人かが確実にアンラッキーな目に遭い(笑)、歴史はほんの少し変わるかもしれない。そういうことに思いを馳せるのも歴史小説の醍醐味だ。