元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「バベル」

2007-05-13 07:33:26 | 映画の感想(は行)

 (原題:Babel )テーマの重要度とキャストの熱演で長い上映時間を何とか持たせることには成功したが、出来は悪い。

 まず、日本編は不要だ。菊地凛子がオスカー候補になったことが話題になっているが、確かに頑張ってはいるものの、役柄自体が不自然だ。あれじゃただの“露出狂のコギャル”である。ひょっとして作者は日本の女子高生はほとんど“あんな風”だと思っているのかもしれないが(苦笑)。

 役所広司の設定も随分と無理がある。いったい何の仕事をしているのか。都心の超高級マンションに住み、休暇中にはアフリカでハンティング、しかもいくら世話になったとはいえ現地ガイドに平気でライフル銃をプレゼントするという無神経さ。ラストの娘とのショットも妙ちきりんでマトモに見ていられない。これはハリウッドでおなじみの“えせ日本”の一種ではないかと思えてくる。

 そしてメキシコ編もおかしい。知恵の回らないメイドが勝手に雇い主の子供達を故郷の村に引っ張っていき、これまた考えの足りない親戚筋の若い男が余計なことをした挙げ句、重大なトラブルを招いてしまうという話。自業自得としか言えないエピソードで、何が面白いのか分からない。メキシコから米国への不法入国という時事ネタが絡んでいることは重々承知しているが、出てくる連中が愚かすぎるのでまったく感情移入できないのだ。

 モロッコ編だけは比較的マジメな仕上がりだが、いくら後進国とはいえ子供に平気で銃を向ける警官がいるとは思えない。はっきり言って、総花的に(御丁寧に時制までも前後させて)多数のエピソードをバラマキ式に並べるよりは、モロッコ編だけを充実させて一本を撮りあげた方が数段マシだったろう。

 たとえば、バス銃撃事件の元になったライフルは過激派あたりから流れてきた物資ということにして、あとは主人公の夫婦の苦闘と、事なかれ主義に走る他の乗客達の群像劇と、国際問題に発展しそうになる事態を必死になって抑えようとする政治家たちの確執、これを三つ巴にしてテンション上げて描けばかなりタイトな作劇になったろうし、コミュニケーションの不全という作品のテーマも無理なく浮かび上がったはずだ。

 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の前作「21g」を観たときも思ったのだが、この演出家はミクロ的には集中度は高いが全体的な作劇のまとめ上げ方には難がある。主演者ではブラッド・ピットとケイト・ブランシェットがさすがの好演を見せるが、他のキャストは肩に力が入りすぎて感心しない。グスターボ・サンタオラヤの音楽は「ブロークバック・マウンテン」に続いて流麗な仕上がりだ。

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