元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「風が強く吹いている」

2009-11-13 06:28:11 | 映画の感想(か行)

 面白く観ることが出来た。落ちこぼれの連中が一念発起して頑張り、大きな舞台で活躍するという典型的スポ根ドラマのルーティンを踏襲していながら、アナクロニズムを抑えたスマートな作りになっているのがセールスポイントだ。

 在校生でさえ陸上部があることを知らないような大学で、無謀にも箱根駅伝を目指して奮闘する学生達を描く。彼らが寝起きするのは“昭和の臭い”がプンプンするボロい下宿屋。出てくる奴らもまったく垢抜けず、もちろんカネもなく、女っ気など縁がない(マネージャー役の女子学生は登場するが、誰一人として彼女と親密な関係にはならない)。これがどうして“スマート”なのかというと、登場人物達の佇まいが良い意味で“軽い”からである。

 競技には全力を注ぐが、命を賭けるというほどではない。勝利至上主義など別世界の話だ。中心人物である四年生のハイジと新入生のカケルの興味の対象は、大会での勝利よりも“好きだから走る”という原点に立ち返ることである。他のメンバーも、駅伝とは別に自分達の進む道を持っている。チームワークは誰にも強制されず、自発的に生まれてくる。必要以上の汗臭さを感じさせず、皆マイペースで競技に臨んでいる様子に好感を覚える。

 また、三浦しをんの原作に準拠しているのどうか分からないが、この映画は会話が面白い。掛け合い漫才のようなボケと突っ込みの応酬で、全編に渡って笑いが絶えない。これも本作の“軽さ”を象徴しているようだ。観る側に肩に力が入らないような、適切な配慮が成されていると言って良い(爆)。

 監督は脚本家出身でこれがデビュー作となる大森寿美男。展開がスムーズで、ドラマが停滞しない。各キャラクターの描き分けも万全だ。特筆すべきはレースシーンで、ロケ地は大分県の山間部だが実際の箱根駅伝の映像も巧みに盛り込まれ、本当に箱根を走っているような臨場感がある。思わぬトラプルの続出で苦戦しながらも、見事に目標を達成するという筋書きも、型通りだが気持ちが良い。絵に描いたような憎々しいライバルが登場するのにも笑ってしまう。

 出演者は皆相当なトレーニングを積んだらしく、どれもランニング姿がサマになっている。中でもハイジ役の小出恵介とカケルに扮する林遣都が素晴らしい。特に林の、前を見据えてひたむきに走る様子は、本物のランナーと見まごうばかりだ。佐光朗のカメラや千住明の音楽も文句の付けようが無く、明朗青春ドラマとして誰にでも奨められる。

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