元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「バイス」

2019-05-06 06:25:23 | 映画の感想(は行)
 (原題:VICE)前作「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)ではその持ち味が文字通り“華麗に”決まったアダム・マッケイだが、本作では全体的に空回り。一向に面白くならず、鑑賞後の印象は芳しいものではない。要するにこれは、題材と手法とのアンマッチであろう。

 ワイオミング大学出身の青年ディック・チェイニーは、地元では酒癖の悪さで知られる問題人物だった。それでも60年代半ばには後に結婚する恋人のリンに奨められ、政界を目指すことになる。75年に国防長官となるドナルド・ラムズフェルドのもとで政治手法(裏技を含む)を叩き込まれ、議員になってから次第に頭角を現す。国務長官を経て、2001年にジョージ・W・ブッシュ政権時に副大統領に就任。



 通常、あまり重要ポストだと思われなかった副大統領という地位を逆手に取り、国民やマスコミに知られることなく大胆な根回しと押しの強さで好き勝手に振る舞う。同年9月11日に同時多発テロ事件が起こると、大統領を差し置いてアフガニスタンやイラクに軍事介入することを決めてしまう。アメリカ史上最も権力を持った(と言われる)副大統領の実態に迫ろうというドラマだ。

 経済ネタを扱った「マネー・ショート」では、実体経済という捉えどころの無いシロモノをエンタテインメントの題材として仕上げるために、マッケイ監督のオフビートでギャグ満載の手法が威力を発揮した。しかし本作の素材は“政治”である。政治がもたらした昨今の世界情勢は、程度の差こそあれ皆が関知している事柄だ。ここは正攻法でいくしかないだろう。

 しかも、チェイニーをはじめこの映画に出てくるキャラクターの多くは現時点で健在だ。本人達を前にして悪ふざけをやらかすのは、さすがに傲慢と言わざるを得ない(名誉毀損で訴えられたら勝つのは難しいだろう)。

 それでも、映画の切り口が斬新だったり、誰も知らなかった事実を明らかにしてくれたら文句は無かった。しかし本作は相変わらずの“共和党はダメ。民主党はオッケー”という、ハリウッドの“伝統的スタンス”を一歩も出ておらず、少しも興趣を覚えるところは無い。そもそも、チェイニーがどうしてああいう行動に出たのか、そのバックボーンに全然迫らずに現象面だけを追っているという有様だ。

 主演のクリスチャン・ベールは体重を20キロも増やし、髪の毛を剃って眉毛を脱色するなど、徹底した役作りでチェイニーになりきっている。しかし、他の登場人物も含めてそれは“そっくりさんショー”のルーティンでしかなく、観ていて鼻白むばかりである。共演のエイミー・アダムスやスティーヴ・カレル、サム・ロックウェルも頑張ってはいるが、映画の出来自体が斯くの如しなので、あまり印象に残らない。

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