元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブータン 山の教室」

2021-05-16 06:12:50 | 映画の感想(は行)
 (原題:LUNANA: A YAK IN THE CLASSROOM)素材は珍しく、映像は美しい。キャストも好演だ。しかしながら、いまひとつ感銘度には欠ける。それは脚本の不備によるものだが、もしかすると作者はこの筋書きが真っ当だと思っているのかもしれない。観る側にとっては、彼の国の事情は十分には分かりかねる。

 ブータンの首都ティンプーに住む若い男ウゲンは教職課程を終えて実習の最中だが、教師は向いていないと思っており、実はミュージシャン志望である。そんな彼に当局側は、国内で最も僻地にあるルナナ村の学校へ期間限定で赴任するよう言い渡す。一週間かけてたどり着いた村は、住民が50人あまりの、電気も水道もない辺境の地だった。あまりにヘヴィな状況に戸惑うウゲンだったが、温かく迎える村民たちと付き合ううちに次第に教師の役割を自覚してゆく。だが、冬が近くなり彼が村を離れる時期がやってくる。



 ルナナ村までの行程はほとんどアドベンチャー映画で、しかもかなりの尺を取っている。対して村に到着してからは、村人たちとの軋轢や生徒たちの反抗といったネガティヴな要素は見られない。ウゲンはすんなりと村に馴染み、生徒たちはすぐに懐き、自分のやりたいように授業を進め、ついでに村の若い女子とも仲良くなったりする。

 いささか拍子抜けだが、おそらくこの国では教師が“聖職”であるという認識が強く、特に地方においては教職に就いている者を邪険に扱うということは考えられないのだろう。それだけ教育が重要視されているのだ。とはいえ、終盤の扱いには納得出来ない。幸福度が高いと言われるこの国でも、若年層の考え方はこんなものだと見切っているのが何とも切ないのだ。

 これがデビュー作となるパオ・チョニン・ドルジ(脚本も担当)の演出は破綻が無く、上手くやっている。適度なユーモアを交えているのも好感触だ。とはいえ、この筋書きがブータンの実相を表しているのならば、こちらとしては理解の外にあると言って良いだろう。

 主演のシェラップ・ドルジをはじめ、ゲン・ノルブ・へンドゥップ、ルドン・ハモ・グルンといった出演者はいずれも良くやっている。生徒たちは実際に地元の子ばかりだが、皆面構えが良く、特に学級委員のペム・ザムはとても可愛い。ヒマラヤ山脈の風景は当然ながら美しく、劇場内の空気まで変わっていくようだ。

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