元・副会長のCinema Days

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「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」

2021-05-17 06:34:32 | 映画の感想(あ行)
 (原題:MY OCTOPUS TEACHER)2020年9月よりNetflixより配信。第93回アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞作である。内容は驚くべきもので、最初からラストまで目が離せなかった。一見、よくある自然観察系ドキュメンタリー(?)のようだが、内実はヒューマンドラマであり、家庭劇であり、時にサスペンス映画だったりする。この多面性と意外性は、本作に屹立した個性を付与していると言えよう。

 映像作家のクレイグ・フォスターは、長年の激務で疲弊しきっていた。そこで故国の南アフリカに戻り、ケープタウンの近くにあるファルス湾でダイビング三昧の日々を送ることで、心身を癒やそうとする。ある日彼は、海中で貝殻が積み上げられた不思議な物体を見つける。近付いてよく観察すると、それはタコが身を隠すために貝殻をくっつけた姿であった。その生態に魅了された彼は、そのメスのタコを“彼女”と名付けて毎日海の中に潜り続ける。一方、クレイグは思春期の息子との仲がうまくいっておらず、この“彼女”の存在がそれを修復する一助になればいいと思っている。



 とにかく、この“彼女”の振る舞いにはびっくりすることばかりだ。タコは知能が高く、犬や猫と同等だとも言われる。それを裏付けるように、エサの採り方はとても頭脳的だ。そして天敵のサメとの“攻防戦”は、アクション映画さながらにスリリングである。“彼女”の繰り出すあの手この手は、観る側はまったく予想が出来ず、まさにセンス・オブ・ワンダーの釣瓶打ちだ。

 さらには“彼女”が魚の群れを相手に遊んだり、クレイグを友人と見なしてじゃれついたりもする。もちろん、クレイグは相手が野生生物ということで“ペットと飼い主”のような関係は構築しない。もっとも、タコの寿命は約一年で、これが犬や猫とは決定的に違うところだ。いずれは悲しい別れが待っていることは分かるのだが、いざ直面すると観ているこちらも胸が痛む。

 ピッパ・エアリックとジェームズ・リードの演出は、クレイグの他にカメラマンなどのスタッフが行動を共にしているにもかかかわらず、全編これ“彼女”とクレイグ(およびその息子)だけの物語に見せるという離れ業をこなしていて感心する。また映像は痺れるほど美しく、クレイグの言う通り、海の中は“SF映画顔負けの別世界”だ。ケビン・スミッツによる音楽も効果的。

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