元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「TITANE チタン」

2022-05-29 06:56:51 | 映画の感想(英数)
 (原題:TITANE)まさに超弩級の“変態映画”で、このようなシャシンに大賞をくれてやった第74回カンヌ国際映画祭の審査委員たちには、精一杯の罵声と拍手を送りたい(笑)。とにかく、絶対に人に奨められない内容ながら、醸し出される何とも言えない恍惚感と吸引力には呆れるばかり。本年度屈指の問題作だ。

 主人公のアレクシアは幼い頃から自動車に強い興味を持っていたが、ある日交通事故に遭って治療のため頭蓋骨にチタンプレートを埋め込まれてしまう。それを機に彼女の車への偏愛はますます昂進していき、成長してからは自動車ショーのコンパニオンを務める傍ら、言い寄ってくる者たちを容赦なく惨殺する犯罪者になる。指名手配されて行き場を失ったアレクシアは、10年前に子供が行方不明となり、現在はひとり孤独に暮らしている消防士のヴァンサンの息子に成りすまし、2人で共同生活を始めるのだった。



 ヒロインがどうして車に執着するようになったのか、それについての説明は一切なし。彼女がどうしてヴァンサンに対して殺意を抱かないのか、それも分からない。そもそも、彼女が“あり得ない妊娠”をしていること自体、奇想の極みだ。しかし、このように屋上屋を架すがごとくデタラメを連発する本作には、通常の因果律を吹き飛ばしてしまうほどのパワーがある。

 アレクシアは狂気に陥っているが、ヴァンサンも立派な変態オヤジだ。この尋常ならざる2人のコラボレーションを見ていると、変態を突き詰めれば何か別の次元に到達するのではないかという、作者の何かに取り付かれたような偏執ぶりが窺われ、映画的興趣は増すばかり。加えて、主演のアガト・ルセルの、まるでイッちゃったような目つきと振る舞いは、凶暴なエロティシズムを画面いっぱいに発散させ圧巻。対するヴァンサン・ランドンのむっつりスケベぶりも捨てがたい(笑)。

 脚本も担当したジュリア・デュクルノーの演出は程度を知らない暴力描写と、閉塞的な空間の創出に卓越したものを感じる。おそらくはデイヴィッド・クローネンバーグ監督の「クラッシュ」(96年)との共通性を見出す観客も多いだろうが、あっちは自動車事故により性的に興奮する変態どもを描いていたのに対し、こちらは車そのものを性行為の対象にするという、別の面からの変質者的アプローチが光っている。ルーベン・インペンスによる撮影は画面に陰影を与えているし、ジム・ウィリアムズの音楽がこれまた変態的で聴き応えたっぷりだ。

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