前回映画の感想を書いたが、原作も読んでいる。結論を言えば、映画と小説とでは原作の圧勝だ。どんなに凄いヴィジュアル描写が文章で表現されていようと、一度映像化してしまえば(よほど素晴らしいものやアイデアを注ぎ込んだものなら別だが)底が見えてしまう。
さらに、映画化版では主要なキャラクターが一人、ばっさりと削られている。そして映画に出てくる警部は、原作では警視副総監というVIPであり、部下を使って事件を周到に追いつめてゆくのだが、警部一人のスタンドプレイに終わる映画化版は説得力を欠く。もちろん、警部が映画ファンなどというモチーフはまったく出てこない。パプリカに協力するのが“現実”の側を担う地位にある者達であることは重要で、これが“現実”のディテールを補強していることになるのだが、映画の作者はそのあたりに気が付かなかったようだ。
さて小説そのものの感想だが、シチュエーションの説明に終始する前半は正直退屈だった。しかし、夢が現実にまで溢れてくる終盤近くの展開は筒井節の真骨頂。次から次に出てくるぶっ飛んだイメージの洪水で、アッという間に読み終わってしまう。
映画版では空間面の異常を描こうとしていたが、原作では時間軸まで夢によってグチャグチャになる有様までも扱っており、そこまで映像化しようとするのは並大抵のことではなく、改めて筒井康隆作品の映画化の難しさを痛感した。
そしてヒロイン・パプリカと本当の人格である千葉敦子の造型が、いかにもスケベなオヤジが考えた“理想像”であるのが笑える。おきゃんなパプリカと高嶺の花に見える千葉敦子は一見正反対のキャラクターだが、どちらもオヤジの“空想上の産物”だ。もちろん、露出度とエロさも映画化版のはるか上を行く。もちろん、それが不愉快かというとそうではなく“おお、やっとるわい”という感じで微笑ましい。そして楽しい(^^:)。とにかく、読む価値十分の快作である。