元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「バーディ」

2020-08-09 06:39:05 | 映画の感想(は行)
 (原題:Birdy )84年作品。2020年7月に惜しくも世を去ったアラン・パーカー監督の代表作の一つで、彼がアメリカで撮った映画としては「フェーム」(80年)と並んで個人的に好きなシャシンである。また、あまりにも有名なラストシーンは、観る者に忘れられない印象を与えるだろう。第38回カンヌ国際映画祭にて、審査員特別賞を受賞している。

 60年代のフィラデルフィアが舞台。ベトナム戦争から帰還したアルは、顔に傷を負っていた。治療中の彼に、軍医少佐のワイスから呼び出しがかかる。彼の親友で、同じくベトナムから帰ってきたバーディが心を閉ざしたまま精神病棟に収監されているので、何とか出来ないかという依頼だ。



 アルとバーディは子供の頃から仲が良かった。外交的で闊達なアルに対しバーディは内向的で、あろうことか“いつか鳥になりたい”と本気で思っているような男だった。そんなバーディにアルは高校時代の数々の思い出を語り続ける。ところがバーディは何の反応も示さない。やがてアルが病院を退去しなければならない時刻が近づいてくる。ウィリアム・ワートンの同名小説の映画化だ。

 鳥になろうとするバーディは狂気の中にはあるのだが、それはスラム街で生まれ辛い経験ばかりしてきた少年の、精神的な一種の防御機能の発露とも言える。対してベトナム戦争は存在自体が狂気そのものだ。冷静に見れば、戦場で“勇敢に”戦う姿こそが、不気味で常軌を逸しているものではないのか。

 この監督は子供や若者を主人公に据えると無類の求心力を発揮するが、本作でも大きな狂気が若者のナイーヴな内面を押し潰してゆく、その様子を活写するパーカー演出の何と緻密で繊細なことか。そしてあのラストシーンだ。登場人物たちを信じる作者の想いがあふれ、圧倒された。私はこの映画を劇場で観ているが、ラストショットで観客全員が一瞬呆気にとられ、すぐさまドッと沸いたことを思い出す。

 主演のマシュー・モディンとニコラス・ケイジは好演。特にケイジは、この俳優にこれほどまでの内面表現力があったのかと驚かされた。ジョン・ハーキンスやクリスタル・フィールド、カレン・ヤングといった脇の面子も良い。マイケル・セラシンのカメラによる、文字通り浮遊感のある清澄な映像には感心する。音楽はピーター・ガブリエルが担当し、大ヒットアルバムになる「So」に取り掛かる直前に引き受けた仕事だと思うが、見事なスコアを残している。

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