元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「響 HIBIKI」

2020-04-26 06:56:17 | 映画の感想(は行)
 2018年作品。封切時にはけっこう評判が良かったので、今回(テレビ画面での鑑賞ではあるが)チェックしてみた。結果、これは平凡なテレビドラマ並の訴求力しか持ち合わせていないことが判明。しょせんメインキャストがAKB一派・・・・じゃなかった、坂道一派によるアイドル映画である。ただし、ほんの少し興味を覚える箇所もあり、観る価値は全然無いわけでもない。

 文芸誌「木蓮」の若手スタッフである花井ふみは、データ入稿という条件を無視して手書きの原稿で送られてきた新人賞の応募作品を偶然開封したところ、あまりにも内容が高度であることに仰天する。その作者である鮎喰響(あくい・ひびき)を探し始める彼女だが、実は響は15歳の女子高生だった。



 響は高校入学と同時に文芸部に入るが、過激な言動で周囲を翻弄する。同じ文芸部に籍を置く祖父江凛夏は有名作家の娘で、近々作家デビューする段取りを「木蓮」社と打ち合わせていたところ、担当の花井が響の存在を知ることになる。花井の上層部への進言により、響の作品は雑誌に掲載されるが、これが一大センセーションを巻き起こし、早くも芥川賞と直木賞のノミネートされるまでになる。柳本光晴による同名コミックの映画化だ。

 響の造型はまるで話にならない。何しろ、全然天才らしさが無いのだ。他者への批評だけは一人前のようだが、言動には才気走った雰囲気は感じられない。ハッキリ言って、これはただの粗暴なガキだ。しかも、彼女から暴力を振るわれた側がいずれも泣き寝入り的に黙ってしまうのには苦笑するしかない。

 これは普通に考えれば逮捕されるか、少なくとも民事訴訟で多額の損害賠償を要求されるケースだ。また、相手が血の気が多い奴だったら逆襲されて殺されたり瀕死の重傷を負うことも考えられる。こんな絵空事のヒロインの周りを、いい大人たちが及び腰で立ち竦んでいるという構図は、まさに噴飯ものだ。

 斯様に主人公には実体感が無いので、ストーリーも要領を得ないまま進み、気勢の上がらないラストに行き着くのみである。月川翔の演出は平板。しかも、不自然なところでフェイドアウトが入るところを見ても、当初からテレビ放映のためのテレビ的な作りを意識したとしか思えない。

 主演の平手友梨奈は表情が乏しく、セリフ回しも単調。しかしこれは、経験の浅い彼女のための役柄なのだろう。とはいえ、明朗でフレキシブルな演技をする凛夏役のアヤカ・ウィルソンと並ぶと、辛いものがある。北川景子に高嶋政伸、柳楽優弥、北村有起哉、野間口徹、吉田栄作など、共演陣は豪華だが主役を引き立てるためか大した演技はしていない。小栗旬に至っては、何しに出てきたのか判然としない始末だ。

 とはいえ、見どころは少しはある。それは、作家連中の生態を活写していることだ。どの作家センセイも傲慢で協調性に欠け、しかも自意識過剰である。実際にそうなのかは知らないが、たぶんそんな感じなのだろうと思わせる。このモチーフを出してきただけでも、見た甲斐はあったかなと思う(それさえ無かったならば、途中で“退出”していた)。
コメント
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