元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ザ・コールデスト・ゲーム」

2020-04-12 06:10:51 | 映画の感想(さ行)
 (原題:THE COLDEST GAME)2019年作品。Netflixで配信されたスパイ・サスペンスで、設定や雰囲気はアメリカ映画のようだが、実はポーランド映画。言われてみれば、ストーリーラインにこの国の戦後史が散りばめられており、それが効果を上げている。展開は荒っぽさも感じるが、緊迫度が高く最後まで飽きずに見ていられる。

 キューバ危機が勃発した1962年、アメリカとソ連のチェスのチャンピオンによる親善試合がワルシャワで行われようとしていた。ところが米国代表が試合直前に謎の死を遂げ、アメリカ当局は代わりに天才数学者でチェスの達人であるマイスキーを拉致同然にポーランドに移送し、試合に臨ませようとする。



 実はこのイベントの裏には米ソの諜報戦が絡んでおり、マイスキーにはソビエト軍内部の通報者に接触して、キューバ情勢に関する機密を入手せよとの指令が無理矢理に押し付けられる。ポーランドのアメリカ大使館のスタッフやCIAのエージェントがマイスキーをフォローするが、彼はイマイチ信用していない。通報者の正体も分からない中、やがて予期せぬ出来事が次々と起こる。

 マイスキーのキャラクター設定が秀逸だ。重度のアル中だが、彼はシラフでいる時には頭の回転が速すぎて上手く行動出来ない。ところが酒を飲むといい案配に頭脳の明晰度が緩和され、結果としてチェスでは無敵になる。まるでジャッキー・チェン扮する「酔拳」の主人公みたいな造型だが、マイスキーは外見はショボくれたオッサンであるところが面白い。まさに意外性の塊だ。

 そんな彼が誰が敵か味方か分からない剣呑な世界に放り込まれることになるが、終始マイペースで難関を乗り越えていく。特に、地元の博物館の館長と飲み友達になるくだりは興味深い。館長は第二次大戦末期のワルシャワ蜂起を体験しており、街中に張り巡らされた抜け道(地下水道を含む)をマイスキーに紹介するのだが、そこに大戦中にポーランド国民が味わった苦難が刻み込まれている。かつてナチスに蹂躙されたこの地は、冷戦下ではソ連の支配するところになった。その鬱屈ぶりが焙り出されている。



 物語は、意外な裏切り者と、これまた意外な味方が交互に現れ、二転三転する。それに応じてチェスの対局も波乱含みになるあたり、なかなかよく考えられている。登場人物は皆十分に“立って”いるが、敵役のソ連の司令官が絵に描いたようなサイコパスぶりを披露する場面は個人的にウケた。

 ルカシュ・コスミッキの演出は中盤でのプロットの混濁はあるものの、重量感があってテンポも悪くない。主演のビル・プルマンのパフォーマンスは絶品で、おそらく彼の代表作の一つになるだろう。ロッテ・ファービークにロベルト・ヴィェンツキェヴィチ、ジェームズ・ブルーアといった他のキャストも万全だ。上映時間が103分とコンパクトなのも有り難い。
コメント
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