元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「不法侵入」

2020-04-05 06:57:57 | 映画の感想(は行)
 (原題:UNLAWFUL ENTRY)92年作品。出来自体は取り立てて評価する程ではないが、設定は興味深くキャストも健闘しており、観て損した気分にはならない。公開当時にはカーティス・ハンソン監督の「ゆりかごを揺らす手」やマーティン・スコセッシ監督の「ケープ・フィアー」といった日常に潜む恐怖を描いたサスペンス物が相次いで公開され話題になっていたが、本作もそのトレンドの一翼を担った映画だ。

 ロスアンジェルスの高級住宅街にあるマイケルとカレンの夫婦の家に、強盗が侵入した。犯人は逃亡したが、駆けつけた警官の一人ピートは何かと親切で、夫妻に防犯のアドバイスまでしてくれる。彼を信用したマイケルたちは個人的に付き合うようになった。だが、ピートが容疑者に乱暴をはたらく様子を目の当たりにしたマイケルは、カレンに彼とは会わないように言う。実はピートの狙いはカレンで、彼女を自分のものにするためにマイケルを始末しようと考えていたのだ。やがてピートの策略によってマイケルの周辺でトラブルが頻発し、ついには身の覚えの無い麻薬所持の疑いでマイケルは逮捕されてしまう。



 モンスター的な犯人に主人公たちが敢然と立ち向かうという筋書きは、エイドリアン・ライン監督の「危険な情事」(88年)なんかとあまり変わらず、ハッキリ言って芸が無い。そこに至る展開もスムーズではなく、ジョナサン・キャプランの演出ぶりは代表作の「告発の行方」(88年)より落ちる。

 しかしながら、実直そうな警察官が突如として一般市民に対して牙を剥くという設定は、けっこう興味深い。誰だって相手がマジメな警官だったら気を許してしまうだろう。ましてや劇中でピートが“警官は心身をすり減らす職業だ。結婚が遅いのも仕事がハードで危険だからだ”などと辛そうな本音を洩らしたりするのだから、尚更だ。このテの映画が流行っていたアメリカの犯罪事情は、なるほど実際ヤバいのだろう。リベラル派で暴力を嫌っていたマイケルたちが、結局は銃の力を頼りにするしかない状況に追い込まれるというのも皮肉だ。

 ピートに扮しているのがレイ・リオッタというのが出色で、コイツは絶対にロクな奴ではないと分かってはしても、映画の中ではマジメを装って出てくるのだからタチが悪い(笑)。中盤以降で昂進するサイコ演技も最高で、特にあの目付きは常人のレベルを完全に逸脱している。主人公の夫婦を演じるカート・ラッセルとマデリーン・ストウのパフォーマンスも万全で、とりわけストウは当時は最高に美しかった。音楽はジェームズ・ホーナーで、さすがのスコアを提供している。
コメント
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