元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「火口のふたり」

2019-09-28 06:29:36 | 映画の感想(か行)
 物語の設定、および登場するキャラクターが2人のみという思い切りの良さは興味をそそられた。しかし、中盤以降は監督と脚本を担当している荒井晴彦の“悪い意味での”持ち味が全面展開し、何とも釈然としない気分になる。ラストに至っては“なんじゃこりゃ”で、結局肩を落としたまま劇場を後にした。

 離婚して仕事も無くし、東京で無為な日々を送る永原賢治の元に、父親から電話が掛かってくる。従妹の佐藤直子が結婚するので、帰省して欲しいとのことだ。挙式まであと10日となる中、賢治は故郷の秋田に戻ってくる。直子に久しぶりに会い、新生活に向けての手伝いをする賢治だが、実は直子が東京の学校に通っている間、2人は恋愛関係にあった。



 片付けていた荷物から直子は一冊のアルバムを取り出すが、そこには2人の交情場面が写ったモノクロームの写真が収められていた。その頃のことを思い出した賢治は、直子の婚約者が戻るまでの5日間だけ、欲望のままに彼女と過ごすことにする。白石一文による同名小説の映画化だ。

 かつては“禁断の恋”めいたシチュエーションに身を置いたものの、今では賢治は鬱屈した生活に甘んじ、直子はさほど好きでもない相手と“早いところ子供が欲しいから”という消極的な理由で結婚を決める。この若くして人生に疲れたような2人が、何となく昔のように懇ろな仲になるという設定は、なかなか良い。しかも5日間というタイムリミットがある。人間、限定されたシチュエーションならば、捨て鉢な行動に走るというのも十分あり得る。とことん後ろ向きに過ごしてみるのも、また一興なのだ(笑)。

 しかし、後半から様子がおかしくなる。直子のフィアンセが自衛隊員で、しかも極秘の任務を与えられているというモチーフからして、かなり臭い。街には“イージス・アショア設置反対”のビラが貼られ、終盤にはこの国のカタチがどうしたの何のという、大仰なネタが振られる。挙げ句の果ては唐突に過ぎる幕切れを見せられ、憮然とした心持ちになった。

 かつて田中慎弥の小説「共喰い」の映画化で、天皇の戦争責任やら何やら余計なものを付与して観る者を脱力させた荒井は、ここでも似たようなことをやっている。企画に寺脇研が参加しているのも“ああ、やっぱりね”といった案配だ。

 主演の柄本佑と瀧内公美は好演。たった2人で、映画を支えている。だが、肝心の絡みの場面は盛り上がらない。前作「この国の空」(2015年)でもそうだったが、この監督はベッドシーンがそれほど上手くない。川上皓市の撮影は健闘していたとは思うが、終わり近くの巨大な発電用風車の場面は、同じ舞台の藤井道人監督作「デイアンドナイト」での同様の映像に及ばない。下田逸郎の音楽はそれ単体では決して悪くはないが、映画に合っているとは思えない。
コメント
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