元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

最近購入したCD(その37)。

2019-09-06 06:32:17 | 音楽ネタ
 オハイオ州シンシナティで99年に結成されたインディー系ロックバンド、ザ・ナショナルのサウンドは、正直今まであまりピンと来なかった。ダウナーで屈折したような高踏的ロックサウンドを奏でる展開は、まあそれなりに評判が良かったものの、個人的にはヌケが悪くてキャッチーとは程遠いシロモノとしか映らなかった。ところが今年(2019年)リリースされたこの8枚目のアルバム「アイ・アム・イージー・トゥ・ファインド」は格段に聴きやすくなり、幅広い層にアピール出来る仕上がりになっている。



 何より、複数の女性ヴォーカルをフィーチャーしたことが大きい。音の厚みが増すと共に、目の前がパッと明るくなったような開放感が味わえる。ゲストシンガーはリサ・ハニガンや、シャロン・ヴァン・エッテン、ミナ・ティンドルといった一般にはそれほど知られていない顔ぶれだが、いずれもかなりの実力者で、バンド自体の音にしっかりと馴染んでいる。また、合唱団やストリング・セクションも起用し、バラエティに富んだパフォーマンスが堪能出来る。

 このアルバムは「20センチュリー・ウーマン」(2016年)などのマイク・ミルズ監督による短編映画にリンクする作品であり、多彩なアプローチは映画音楽のメソッドとも無関係ではないのかもしれない。なお、ジャケット写真は主演女優のアリシア・ヴィキャンデルのポートレートを採用。商品自体の見栄えも良い(笑)。

 ハンガリーのブタペスト出身のジャズ・ピアニスト、ロバート・ラカトシュはそのクラシックの素養を活かした流麗な演奏に定評があるが、彼がリリースしたアルバムの中で最も高水準だと思われるピアノ・トリオによるディスクが、この「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」である。録音は2006年で、国内盤は野澤工房から2007年にリリースされている。



 ジェイ・リヴィングストンとレイ・エヴァンズによる御馴染みの表題曲をはじめ、既成曲を中心に12のナンバーが収録されているが、いずれもクールで弛緩した箇所は無い。しかも、歌心あふれるタッチでメロディ・ラインの美しさを存分に際立たせている。ラカトシュ自身の作曲によるものが一曲入っているが、これも他のナンバーに引けを取らない出来だ。ファビアン・ギスラーのベースとドミニク・エグリのドラムスによるリズム・セクションも万全だ。

 そして特筆すべきは録音である。聴感上のレンジは広く、音像もクリア。音場はチリひとつ落ちていないような清涼な展開を見せる。録音場所が風光明媚なスイスのスタジオだからということでもないが、とにかく澄み切った空気感は強く印象付けられる。ジャズ好きのオーディオファンならば、持っていても損は無いアルバムと言えるだろう。

 フランスのクラヴサン奏者ブランディーヌ・ヴェルレによるバッハのチェンバロ曲集(78年録音)は、往年の名オーディオ評論家・長岡鉄男の著書「外盤A級セレクション」でも紹介されていた優秀録音盤であり、私も昔このレコードを探したことがあったが、とうとう入手出来なかった。ところが最近、タワーレコードがCDとして復刻リリースしてくれた。直ちに買い求めたのは言うまでも無い。



 曲目はフランス様式による序曲とイタリア協奏曲、4つのデュエットの3つ。イタリア協奏曲を除けばあまり馴染みが無いが、そこはバッハ作品、聴き込めば決して平凡ではない佳曲だ。ヴェルレの演奏は、ハッキリ言って凄い。タッチは鋼鉄のように強靱で、一分のスキも無く、聴き手にグイグイ迫ってくる。とにかく曖昧さを抑えた骨太なパフォーマンスで、艶っぽさや滑らかさを求めるリスナーには合わないが、曲目にしっかり対峙して味わいたい向きには打って付けだ。

 録音は噂通りの素晴らしさ。全帯域に渡って明瞭で、しかも高域も低域も十分伸びている。音像は鋭く切れ込み、音場も狭いながら整備されている。特に低音の、重量感がありながら締まっているという展開は他の追随を許さない。このディスクが千円ちょっとで買えるというのは、実に有り難いことである。
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