元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「イソップの思うツボ」

2019-09-13 06:33:21 | 映画の感想(あ行)
 凝った筋書きにしようという作者の意図は十分に感じられるのだが、如何せん無理筋のプロットが目立ち、結果として要領を得ない出来に終わっている。脚本の内容に対する精査が不十分であり、監督が3人というのも効果的であるとは思えず、製作側の姿勢が煮詰まらないまま勢いだけで撮り上げた感が強い。

 大学生の亀田美羽は内気で友達もおらず、話し相手は飼っているカメだけだ。ハンサムな代理教員のことが気になるが、彼女に出来るのは遠くから写真を撮るだけ。美羽と同じゼミに所属する兎草早織は、大人気“タレント家族”の娘で、彼女の周囲を今風の垢抜けた連中が取り巻いている。だが、早織の母親は浮気癖があり、父親は妻の不倫相手を復讐代行屋の戌井連太郎と小柚の親子に依頼してヤキを入れることもあった。ある日、連太郎の元ボスでヤクザの近藤が、戌井親子に誘拐犯罪を持ちかける。弱みを握られている連太郎には、断れない。その誘拐のターゲットは、何と兎草一家だった。



 快作「カメラを止めるな!」(2017年)のスタッフが再結集したという触れ込みで、前作と同様この映画も後半はドンデン返しの連続になる。ただ「カメラを止めるな!」とは決定的に違うのは、観客に対する本当の意味でのサービス精神が欠けていることだ。とにかく“意外な展開”にすればそれでヨシとする自己満足的な決め付けだけが先行し、穴が目立つ各モチーフは放置状態。

 件の代理教員はどうやって大学に潜り込んだのか、近藤が誘拐事件は警察沙汰には絶対ならないと踏んだ理由は何なのか、美羽の“思い切った行動”にはどういう背景があるのか、素人がどうして拳銃を上手く扱えるのか、そもそも“(騒動の元になった)事件”の責任の所在が間違っているのではないかetc.とにかく突っ込みどころが満載だ。

 しかもヘンに陰惨な決着の付け方には、観ている側に対する配慮も感じられない。監督は前作に続いての上田慎一郎に加え、中泉裕矢と浅沼直也が共同で担当。脚本も3人の共作だ。このチグハグ感の原因はそのあたりにも起因しているのかもしれない。

 ただし、美羽役の石川瑠華(上智大学理工学部卒)と早織に扮する井桁弘恵(九州屈指の進学校である福岡県立修猷館高校出身)、小柚を演じる紅甘(漫画家の内田春菊の娘)の3人の新鋭は見どころがある。特に石川は比較的地味なルックスとは裏腹に、何を考えているか分からない不気味さを漂わせて実に面白い。反面、斉藤陽一郎や川瀬陽太、渡辺真起子、佐伯日菜子といった脇のキャストは大したパフォーマンスをしていない。

 それにしても、ウサギ(兎草)とカメ(亀田)はイソップの寓話で同じ話に登場するが、イヌ(戌井)が出てくるのは別の話なので、そのあたりの違和感も拭えない。
コメント
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