元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ダンスウィズミー」

2019-09-09 06:34:10 | 映画の感想(た行)
 楽しい時間を過ごすことが出来た。もっとも、不満な点はある。往年のMGMミュージカルやインド製娯楽映画等と比べれば、パフォーマンスは明らかに見劣りする。そもそも、歌や踊りに充てられた時間が少ない。しかし、それでも支持したいと思う。それは、今の日本映画で“やるだけやった”というレベルに達していること、そしてミュージカルが成立する前提そのものに切り込んでいること、この2点だけでも本作の存在価値は十分ある。

 努力の末に大手商社に就職した新人OLの鈴木静香は、ある日姪っ子と一緒に足を運んだ遊園地で、怪しい催眠術師のマーチン上田の手によって音楽を聴くといつでもどこでも、歌って踊らずにいられないようになってしまう。術を解いてもうため、翌日彼女は催眠術師のもとへ向かうが、相手は借金取りに追われて行方をくらました後だった。静香は急遽一週間の休みを取り、私立探偵の渡辺に調査を依頼すると共に、成り行きで同行するようになった千絵と洋子も加え、マーチンを追って東北から北海道まで駆け巡る。



 ミュージカルといえば、突然歌ったり踊り出すという、興味の無い者からすれば違和感満載の設定が“約束事”として横たわっているわけだが、本作はそこに疑問を呈するべく主人公を“外的要因”によってミュージカル体質にしてしまうという荒業を披露している。このモチーフはおそらく前例は無く、かつ痛快だ。

 しかも、ヒロインは子供の頃に学芸会で失敗して以来、ミュージカルが何より苦手ということを公言している反面、実は潜在的には舞台で歌うことが大好きである。この捻り具合には感心した。

 歌と踊りのシーンはそれほどクォリティは高くない。だが、それは職場やレストランといった日常的なロケーションで突如として出現し、ひょっとしたらもしも自分が居合わせたら参加できるのではと思わせるほどだ。そこが楽しい。おそらく“舞台で活躍するミュージカル役者がいくらでもいるのに、経験の浅いキャストを起用するのは納得出来ない”という意見も出るだろうが、あえて“本職”を極力排したことは冷静な判断だと思う。

 矢口史靖の演出は久々にノリが良く、終盤で伏線を全て回収する脚本も申し分ない。キャストでは主演の三吉彩花の奮闘が光る。相当な鍛練を積んだことが窺われ、それでもストリート系のダンス等には覚束ないところがあるが、長い手足を活かして実に楽しそうに歌って踊る。もっと映画に出て欲しい人材だ。やしろ優にchay、三浦貴大、ムロツヨシといった面々も申し分なく、マーチン役の宝田明の超怪演には笑った。

 使われているナンバーは70年代・80年代の既成曲が中心だが、ヘタにオリジナル曲を大量提示した挙げ句コケる危険性を考えれば、それで良かったと思う。個人的にウケたのが序盤に流れるスペクトラムの「ACT-SHOW」。約40年ぶりに聴いたが、古さを感じない佳曲だと思う。
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