元・副会長のCinema Days

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「それぞれの道のり」

2019-09-23 06:58:33 | 映画の感想(さ行)
 (原題:LAKBAYAN)アジアフォーカス福岡国際映画祭2019出品作品。フィリピン映画生誕100周年を記念して、“旅”をモチーフに製作された3話から成るオムニバス映画だ。しかしながら、ラヴ・ディアス監督による第一話と、キドラット・タヒミック監督が撮った第三話はほとんど語るべきものは無い。せいぜいが現地の珍しい風俗が紹介されていることが目を引く程度だ。これらに対してブリランテ・メンドーサ監督による第二話は、かなり見応えがある。

 大財閥によって土地を奪われたミンダナオ島の農民達は、政府に直訴するためデモ隊を結成し、首都マニラのマラカニアン宮殿まで長い道のりを踏破しようとする。彼らと同行するフリーのジャーナリストは、その苦難の旅路を克明に記録する。



 疲労困憊してマニラにたどり着いた彼らを、マスコミや市民そして宗教関係者は歓迎。同時に、農民達と政府や財閥の関係者との交渉が始まる。だが、事態が好転するかに思われた矢先、さらなる仕打ちが彼らを待っていた。実話を基にしており、本作によってフィリピンにおける農政の理不尽さと、それに対抗する農民達の運動に関することを、初めて知った次第だ。

 この問題は根深く、過去何十年にわたって解決の兆しは見えない。現在においても、運動の指導者たちが原因不明の死を遂げるケースが少なくないという。デモ隊は郷土色豊かなフィリピンの各地を進み、地元の者達と交流する。行動を共にするジャーナリストも、自分の立ち位置を見直す。しかし、厳しい現実は彼らを打ちのめす。フィリピンという国の成り立ち、および西欧列強に蹂躙されてきた歴史と、その爪痕に今でも苦しむ庶民の姿が浮き彫りになり、観ていて慄然となる。

 ブリランテ・メンドーサの演出は即物的でジャーナリスティックな映像処理と、登場人物の内面に迫る静的なタッチ、そして実際のニュース映像を織り交ぜ、まったく飽きさせない求心力を持つ。そして、デモ隊に関わる市井の人々の凛とした佇まいを活写して、強い印象を残す。しかしながら、この二話だけが突出した出来であることは、一本の映画としてのレベルはどうなのかと問い質したくなる。いっそのこと、3本を別々の作品として仕上げた方が、訴求力が高まったかもしれない。
コメント
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