元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「裸の島」

2019-01-05 06:15:16 | 映画の感想(は行)
 昭和35年作品。新藤兼人監督の代表作とされているもので、私は“午前十時の映画祭”にて今回初めてスクリーン上映に接することが出来た。ドラマの設定はなかなか野心的で、当時としてはかなりのインパクトがあったと想像するが、現時点で観てみると随分と無理筋の作劇だということが分かる。時代により印象が異なってくるというのも、映画の宿命なのだろう。

 周囲約500メートルの瀬戸内海の孤島に、その夫婦は住んでいた。幼い息子2人のほかには、島には誰もいない。夫婦は島の斜面を耕し、麦とさつま芋を植えて生計を立てていたが、島には水が無い。そのため隣の大きな島に舟で渡って水を汲んでくる必要がある。夫婦の仕事の大半は、この水を運ぶ作業に費やされる。長男は小学生で、親の漕ぐ舟に乗って別の島にある学校に通っていた。ある夏の日、長男が突然に高熱を出した。父親は医者を呼ぶため、必死の思いで舟を急がせる。



 まず釈然としないのが、この一家がどうしてこの小さな島で暮らしているのか、理由が分からない点だ。最初は彼らが村八分に遭って島に追いやられているのだと思ったが、島の外の住民と何か重大なトラブルを抱えているという描写は一切ない。それどころか、村の名主も長男の通う学校の生徒や教師も親切に接してくれる。

 一家で尾道市に旅行に出かけるシークエンスに至っては、ほのぼのとした明るさがあって暗い影は微塵も無い。彼らの境遇に関して合理的説明が無い以上、一家は好きで島にしがみ付き、勝手に苦労を背負い込んでいるだけの、単に変わった者たちと思われても仕方がないだろう。また、長男が病気に罹ったため父親が医者を連れてくるというくだりもおかしい。どう考えても、息子を舟に乗せて医者のいる島へ出向いた方が理に適っている。

 たぶん公開当時は登場人物たちのシビアな状況を通して、家族の絆を問い直しているという評判が先行したのだろう。セリフなしという方法論も革新的に映ったに違いない。だが、斯様に物語の設定に説得力が欠けているため、個人的には現時点での評価は厳しいものになる。それでも、夫婦を演じる乙羽信子と殿山泰司の演技は確かなものだ。黒田清巳のカメラによる、素晴らしく美しい映像。林光の音楽も見事と言うしかない。
コメント
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