元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミュージックボックス」

2015-02-23 06:35:27 | 映画の感想(ま行)
 (原題:MUSIC BOX )89年アメリカ作品。70年前後に“社会派三部作”を撮り存在感を示したコスタ・ガブラス監督の、80年代以降の代表作と言えるものだ。政治的なメッセージ性はもちろん、ミステリー映画としてもかなり高いクォリティを実現している。

 弁護士のアンの父親マイクは第二次大戦後にハンガリーからアメリカに移民し、これまで平和に暮らしてきた。ところがある日、突然ハンガリー政府が彼をユダヤ人虐殺の犯人として引き渡しを求めてくる。マイクは戦時中ハンガリーを支配していたファシスト政権・矢十字党の憲兵のメンバーだったというのだ。



 父の無実を信じるアンだが、マイクが移民の際身分を偽っていたこと、ユダヤ人弾圧を指導していた特務部隊のミシュカという男と同一人物であるという証言が出てくるなど、状況はかなり不利だ。それでもアンは地道な捜査を続け、検察が提示してくる証拠を一つ一つ切り崩していく。果たしてアンは父親の潔白を立証することが出来るのか。

 アンに扮するのはジェシカ・ラングで、プロ意識の高い法曹人を好演している。ヘタをすれば、優しかった父親の黒歴史を暴くかもしれないという懸念に押し潰されそうになりながら、完璧とも思える検察側の主張に敢然と立ち向かってゆく、その気負いが痛いほど伝わってくる。

 いつもはセンセーショナルな題材を得意とするジョー・エスターハスの脚本は、彼が同じハンガリーからの移民であることもあって、密度が濃く堅牢に仕上がっている。特にラストの衝撃は、過去のことを都合よく水に流すことが“美徳”とされている日本人にとってはあまりにも厳しい現実を見せつける。

 私はこの矢十字党の存在をこの映画で初めて知ったが、調べてみるとゲシュタポも真っ青になるほどの残虐性を持っていたようで、ヒットラーからも煙たがられていたようだ。こんなゴロツキみたいな連中が国民の支持を受けて政権の座に就いたことがあるというのだから、行きすぎた国家主義は恐ろしいものがある。
コメント
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