元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「祖谷物語 おくのひと」

2015-02-02 06:29:33 | 映画の感想(あ行)

 ロケ地の風景こそ興味深いが、終わってみれば図式的で底の浅い映画であることが分かる。3時間近くも引っ張っておきながら、この程度の主題提示しか出来ないのならば、最初から撮るなと言いたい。

 日本最後の秘境と言われる徳島県祖谷(いや)の山奥に住む老人は、ある日自動車事故で唯一生き残った女の赤ん坊を拾う。月日は流れ、春菜と名付けられたその赤ん坊は成長して高校に通うまでになったが、春菜と老人は相変わらず自給自足の二人暮らしを続けている。

 そんな時、東京での生活に疲れた青年・工藤がこの地に流れ着いてくる。彼は、老人と春菜の住処の近くで畑仕事を始めようとするが、自然に囲まれたこの村にも土建業者と自然保護団体との対立や過疎の問題など、さまざまなトラブルが生じていることを知る。春菜は身体が弱っていく老人を案じるが、それと共に自分の進路について悩むようになる。

 村ではトンネル工事が行われており、自然保護団体はそれに反対しているのだが、そのメンバーの大半が外国人だというのがクサい。しかも、トンネルが掘られることによって環境にどのような影響が出てくるのか、それも示されない。ただ反対していること自体に大義があるような捉え方だ。

 衰弱していく老人の身体にはなぜか苔が生えていき、重体であるはずなのに突然猟に出て姿をくらましてしまう。村中には何かの象徴のように手作りの案山子が数多く鎮座していて、終盤にはそれらが勝手に動き出して野良仕事を行う。村を出た春菜はバイオテクノロジーの研究所に勤めるようになるが、そこでは環境を浄化するバクテリアを培養している。しかし“ある勢力”によってその研究は中止させられる。

 そもそも、よく考えてみれば電気も水道もない山奥の小屋で子供を満足に育てられるはずもないし、周囲がそれを許すはずもない。重体の老人が一回も医者に掛からないのもヘンだし、一方で工藤のプロフィールや目的も明かされない。

 要するにこの映画はファンタジー仕立てなのだが、それが単純な“エコロジー礼賛、開発反対”といったものに準拠した描き方しかされていないのが不快である。しかもイマジネーションが貧困で、正常なドラマツルギーが形成されていないことに対する言い訳にしか成り得ていない。すこぶる魅力的な祖谷の風景をバックにしてドキュメンタリーでも作った方が、まだボロが出なくて済んだはずだ。

 監督は蔦哲一朗という若手だが、あらゆる意味で未熟な感じを受ける。ただ、主演の武田梨奈は良い。アクション女優として知られる彼女だが、活劇シーンの無い本作では純朴でナイーヴな側面を発揮している。反面、老人役の田中泯を使いこなすほどの力量はこの作者には備わっておらず、工藤役の大西信満も頑張ってはいるのだが空回り。河瀬直美に至っては、出す必要もなかった。
コメント
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