元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「罪の手ざわり」

2014-07-12 09:59:01 | 映画の感想(た行)

 (原題:天注定)強い求心力を持った秀作だ。中国の異能ジャ・ジャンクー監督の「四川のうた」以来5年ぶりの長編劇映画で、格差が生み出す悲劇を描くことによる社会批判と共に、当事者達と大衆演劇や武侠の世界を平行してイメージ的に描き、ドラマに奥行きを持たせている。

 映画は4つのパートに分かれるオムニバス形式だが、それぞれ微妙な関連性を有している。山西省の山村に住むダーハイは、以前は村全体の共同所有だった炭鉱が特定の実業家に独占され、利益が吸い上げられていることに怒りを感じている。ダーハイは資本家に対して抗議行動に打って出るがあえなく叩き出され、しかも村の者まで彼をバカにし始める。切羽詰まった彼は、猟銃を持ちだして凶行に及ぶのであった。

 その村を通り過ぎて妻子の待つ重慶に向かったチョウは、出稼ぎと称して各地で強盗殺人を繰り返していた。故郷に着いても家族や親戚と折り合えず再び旅に出たチョウは、銀行で金を下ろしてきたばかりの中年夫婦を射殺して金を奪う。

 チョウが立ち寄った停車場から出る夜行バスで湖北省の宜昌(イーチャン)に到着した男ヨウリャンは、恋人のシャオユーが待っているレストランに向かう。ヨウリャンには妻がおり、二人は長い間不倫の関係にあった。シャオユーは相手に離婚を迫るが、ヨウリャンの態度は煮え切らない。彼を見送って勤め先であるサウナの受付に戻るシャオユーだったが、夜中に横柄な客がやってきて性的なサービスを彼女に要求する。執拗に迫る客に身の危険を感じた彼女は、側にあった刃物で相手をメッタ刺しにする。

 ヨウリャンが工場長を務める広東省の縫製工場で働く青年シャオホイは、勤務中に同僚に怪我をさせてしまう。職場に居辛くなった彼は仕事を辞め、故郷の東莞(トングァン)に帰る。彼はそこで観光客相手のナイトクラブで働くようになるが、この店でシャオホイはホステスのリェンロンと知り合う。親交を深めるうちに彼女を好きになってしまう彼だが、リェンロンには誰にも告げていない秘密があった。それを知ったシャオホイは、捨て鉢な行動に出る。

 主人公達の振る舞いは反社会的であり、それは現代の中国にはびこる社会問題が大きく関わっていることは論を待たないが、それだけに終わらせないのが、事に至る前(あるいはその後)に見せる得意気な表情だ。殺戮を終えたダーハイは満足げに笑い、“仕事”を済ませたチョウは淡々と達成感に浸り、血まみれのナイフをかざしたシャオユーは武侠映画の登場人物のようにポーズを取る。

 彼らは地縁・血縁から見放された孤独な存在だが、そんな者達が演劇などのフィクションの世界に自らを投影し、インモラルな次元でやっと自身の存在感を認識するという、犯罪の深遠な本質を見抜いたような作者の冷徹な視線に感服してしまう。

 ワン・バオキアンやチャオ・タオ等キャストは知らない面々ばかりだが皆芸達者で、即物的な効果を上げるのに貢献している。無機的な映像の構図も忘れがたい。第66回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞。本年度のアジア映画の収穫である。
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