元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「欲望のバージニア」

2013-07-24 06:18:03 | 映画の感想(や行)

 (原題:LAWLESS )以前観た「L.A.ギャングストーリー」と、印象はほとんど一緒だ。つまりこれは、娯楽西部劇である。時事ネタとか大仰なテーマ性とか、そういう柵から距離を置き、単純明快な割り切り方で観客を楽しませることに徹している。史実を元にしているあたりも共通していると言えよう。

 禁酒法が敷かれていた1930年代。バージニア州フランクリンは、世界有数の密造酒の産地だった。中でも幅を利かせていたのが、怪力で大酒飲みの長男ハワードと才気走った次男のフォレスト、そして野望を持ってはいるが線の細い三男ジャックから成るボンデュラント3兄弟である。

 当局側とは付かず離れずの関係を築き、果敢な営業活動で高収益を挙げていた。ところがある日新任の特別取締官レイクスがこの地区の担当として着任し、密造酒業者達を締め上げに掛かる。その遣り口はヤクザ顔負けで、目的のためならば脅迫や人殺しも平気でおこなう。当初は上手くやり過ごそうと構えていた3兄弟だが、身近な人々が犠牲になるに及び、とうとう堪忍袋の緒が切れる。

 勝因はキャラクターが立っていることだろう。3兄弟は過去に修羅場を何度も潜り、そのたびに復活を遂げ、人々から“不死身”と呼ばれている。事実、そのタフネスは観ていて笑ってしまうほど凄い。

 本来ならば“絵空事に過ぎる”と突っ込みを入れるところだが、3人の性格設定が上手い具合にそれぞれをカバーするようになっており、一人ずつでは大したことが無くても兄弟揃えば“何かあるぞ”と思わせてしまうあたりは納得してしまった。特に次男フォレストの、剛胆でありながら惚れた女に対しては奥手であるところはチャーミング度を大幅アップさせている(笑)。

 「ザ・ロード」などで知られるジョン・ヒルコートの演出は取り立てて技巧的に優れている点があるわけではないが、ドラマを停滞させないだけのテンポの良さと丁寧にシークエンスを積み上げる手堅さは評価出来る。そしてアクション場面にはキレの良さも見せる。

 フォレスト役のトム・ハーディ、ハワードに扮するジェイソン・クラーク、そしてジャックを演じるシャイア・ラブーフ、いずれも好演だ。敵役はガイ・ピアースだが、これが実に憎々しくてアクが強くて出色である。ジェシカ・チャステインやミア・ワシコウスカなどの女優陣も良い。

 禁酒法時代が終わり、エピローグで3兄弟の“その後”が語られるが、不死身伝説が思いがけない形でエンドマークを迎えると共に、ラストのクレジットで実際の3兄弟の写真が紹介されるに及び、鑑賞後の味わいはなかなか深いものがある。
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