元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「戦火の馬」

2012-03-24 06:48:23 | 映画の感想(さ行)

 (原題:WAR HORSE )ヤヌス・カミンスキーのカメラによる、痺れるように美しい映像が本作の売り物だ。イングランド南西部でロケされた田園風景と自然の描写は、まさに天国的である。さらに戦闘シーン、背の高い草が生い茂る荒れ地から馬群がスッと姿を現し、流れるように敵陣めがけて突進していくダイナミズムは、一大戦国絵巻を眺めているような様式美を醸し出す。

 イギリスの農村に住む少年アルバートは父親が買ってきた馬のジョーイを可愛がるが、第一次世界大戦が勃発するとジョーイは軍馬として最前線へと送られてしまう。当初は馬好きの陸軍大尉に託されるが、ドイツ兵の若い兄弟、フランス人の少女と“飼い主”は次々に入れ替わる。アルバートもまたジョーイに会うべくフランス戦線に乗り込んでいく。

 この映画の主人公は、アルバートでもなければ彼を取り巻く者達でもない。馬のジョーイである。はじめはイギリス軍の“所属”であるが、戦場では独軍に拾われ、やがて辛い苦役を強いられるようになる。馬にとっては敵軍も味方も関係ない。目の前にある“障害”を切り抜けていくだけである。

 つまりは戦争なんてものは、利害の対立した国々に“たまたま”居合わせた人間達が“愛国心”というイデオロギーにより殺し合いを強いられている“状況”に過ぎず、それを馬の目を通して淡々と描写していくのみだ。

 そして戦争には正義も悪も無い。それぞれが大義を掲げ、膨大な戦費と人的被害を出しながら、結局は“勝ち負け”というドラスティックな結末が訳知り顔で待ち構えているに過ぎない。馬からすれば、まことにバカバカしい話だ。そして戦争自体も、多分にバカバカしいものなのだ。

 ただし、このような理屈の組み立て方は図式的でもある。ジョーイが辿る行程も、まさに御都合主義の連続だ。しかし、前述したような目覚ましい映像美と、程良い感銘度を伴うように練り上げられた各エピソードの数々により、そのあたりはあまり気にならない。構想から撮影開始までわずか7か月という駆け足の企画だったらしいが、そこはスティーヴン・スピルバーグ監督、ソツのない作劇を実現させている。

 アルバート役のジェレミー・アーヴァインは少し線が細い気がするが、エミリー・ワトソンやデヴィッド・シューリス、ピーター・ミュランといった渋目の英国人俳優で脇を固めているため、重量感は損なわれていない。そしてジョーイをはじめとする馬たちの“名演技”には瞠目させられる。相当な訓練を積んでいると思わせるが、それを可能にしてしまうのは、やはりハリウッド底力か。素直に感動に浸りたい観客、そして馬が好きな者にはもってこいの映画であろう。ジョン・ウィリアムズの音楽も申し分ない。
コメント (2)
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