元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ドラゴン・タトゥーの女」

2012-02-18 06:43:16 | 映画の感想(た行)

 (原題:THE GIRL WITH THE DRAGON TATTOO )世間の評判は良いらしいが、正直言って私は出来が悪いと思う。何より話自体が大して面白くない。加えて作劇がヘタである。原作はベストセラーの大長編だが(私は未読)、約2時間半の上映時間に収める必要があるためか、どうも脚色が上手くいっていない印象を受ける。

 ストックホルムの出版社がリリースする月刊誌「ミレニアム」で大物実業家のスキャンダルをスッパ抜いたものの、逆に名誉毀損で訴えられ結果敗訴に追い込まれたジャーナリストのミカエル。そんな彼に某財閥の元会長から新たな仕事がオファーされる。それは、40年前に起きた富豪一族の娘ハリエット失踪事件の真相を解明してくれとの内容だった。ミカエルは凄腕の女ハッカーであるリスベットと共に調査に乗り出すが、やがて当事者達が想像もしなかった事実が明らかになる。

 そもそも令嬢失踪事件と主人公が抱える訴訟案件という2つの題材を、互いに大きな連携性もないまま並べていること自体が噴飯物である。しかも途中で一方が解決したら、順番待ちのようにもう一方を漫然と進行させるような芸のなさを見せつける。

 さらに言えば、この失踪ネタそのものがほとんど目新しさがない。二流のホラー・サスペンスと同程度の中身しかなく、そこに至る謎解きのプロセスも凡庸だ。訴訟ネタについても別に深みのある内容ではない。有り体に言えば、どうでもいい話である。

 ならば批評家筋から絶賛されているリスベットの造形はどうかといえば、これもあまり感心しない。演じているルーニー・マーラは確かに頑張っているが、マーラ自身が典型的な“良いところのお嬢さん”であるためか、表情や振る舞いのあちこちに“育ちの良さ”とか“品の良さ”みたいなものが滲み出ており、ダーク・ヒロインとしての凄みがスポイルされている。ここは別の女優を持ってくるべきだった。

 ミカエル役のダニエル・クレイグは好演だが、本来の(?)007シリーズの主役とは縁遠くなってしまうようなキャラクター設定だ。これで無事にジェームズ・ボンドを演じられるのかと心配になってくる(笑)。

 それにしても、ほとんどの登場人物がスウェーデン人であるはずなのに、演じているのがイギリス人やアメリカ人で、当然のことながら全員英語をしゃべっているのには違和感がある。舞台をカナダやアラスカ、あるいはイギリス北部等に移し替えれば簡単に解決するのに、どうして実行しないのだろうか。デイヴィッド・フィンチャーの演出は、今回は精彩を欠いており、どうにもテンポが悪い。終盤の扱いなんか、ほとんど腰砕けだ。

 結局この映画の一番の見所は、冒頭のタイトルバックであろう。ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーがアレンジを担当したレッド・ツェッペリンの「移民の歌」(ヴォーカルはヤー・ヤー・ヤーズのカレン・O)をバックに、黒いドロドロとした液体と女体とがエロティックにうごめく。これが実に禍々しくてカッコいい。フィンチャー作品のタイトルとしては「セブン」と並ぶインパクトの高さだ。あえて言えば、この冒頭部分だけを観て劇場を後にしても、さほど後悔しないシャシンだと思う。
コメント (2)
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