元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ウイズ」

2009-07-12 07:30:55 | 映画の感想(あ行)
 (原題:The Wiz)78年作品。先ほど急逝したマイケル・ジャクソンの、おそらくは(ドキュメンタリー等を除いて)唯一の長編映画出演作だ。39年製作の「オズの魔法使い」のリメイクだが、正しくは原作をアレンジした演劇版の映画化である。舞台は現代のニューヨークで、ヒロインのドロシーは24歳の小学校教師に変えられている。黄色いレンガ道はアスファルトの上に描かれ、旅の出発点はハーレムだ。キャストは全員が黒人で、おなじみのナンバー「オーヴァー・ザ・レインボウ」こそ流れないものの、やはりミュージカル映画の体裁を取っている。

 映画のセットが奇態ならば、出てくるキャラクターも異形のものばかり。太った機械人形や紙人形、怪物人形などの意匠は、グロテスクさをも醸し出している。白い粉で攻撃してくるケシ女性軍団の一隊なんて、まるでシャレにならないエゲツなさだ。ところが、ヘタすれば際物に終わりそうなネタを、作者は何とか見応えのあるシャシンに押し上げている。監督は何とシドニー・ルメットで、確かにニューヨーク派と呼ばれている彼だが、ミュージカルは専門外かと思ったらけっこう健闘している。シナリオにジョエル・シューマカーが参画しているのもミソで、さすが後に「オペラ座の怪人」を手掛けるだけあって無理のない脚色だと思う。

 マイケルが演じているのは“カカシ男”で、脳みそが無い代わりに新聞紙のスクラップが頭の中に入っていて、何かというと一部を引っ張り出して格言みたいに読み上げるのが何とも可笑しくもチャーミングだ。ただし、ドロシー役がダイアナ・ロスだというのは納得できない。当時すでに30歳をとうに過ぎていた彼女が、いけしゃあしゃあとファンタジー映画の主役を張るのは無理があった(爆)。もっと若いキャストを連れてくるべきだったと思う。

 特筆されるべきは音楽で、チャーリー・スモールズの原曲をクインシー・ジョーンズが賑々しくアレンジ。全編これノリの良さで観る者を圧倒する。クライマックスは終盤の群舞シーン。画面からの熱気が館内に充満し、素晴らしい盛り上がりを見せる。封切り当時はあまり話題にならなかったが、もっと評価されても良い佳作だ。

 それにしても、マイケルの早すぎる人生からの退場は残念でならない。近年は第一線から退いていた感があったが、これで終わるような奴であるはずがなく、華々しくカムバックしてくれることを信じていただけに落胆は大きい。今はただ、冥福を祈るのみである。
コメント
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