元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

ウォークマン発売から30年。

2009-07-06 06:28:58 | プア・オーディオへの招待
 ヘッドフォンステレオの先駆けとなったSONYのウォークマンが発売されてから、この7月でちょうど30年になる。ウォークマンの誕生は、SONYの創業者の一人である故・井深大が出張時に飛行機の中で聴ける携帯用ステレオが欲しいと言ったのがきっかけらしい。初代のウォークマンは33,000円で、単体のカセットデッキにも迫る価格であったにもかかわらず、そのコンセプトの斬新さから実に良く売れた。ウォークマンはその後も進化を続け、カセットテープからCD・MDなどへ媒体を移しながら、前年度までの累計で約3億8500万台を売り上げている。

 しかしながら、21世紀に入るとアップル社のiPodの登場により優位性が完全に崩れてしまう。インターネット環境を視野に入れたiPodが、従来のパッケージ形式の音楽ソフトの延長線上でしか展開できなかったウォークマンに水を空けたのは、至極当然と言うべきだろう。



 個人的な話になるが、私はウォークマンには発売当初から興味はなかった。もちろん一度も所有したことはない。いくら携帯型として良く練られているとはいっても、所詮はホームオーディオの代用品である。何が悲しくて、外出先で家にあるオーディオシステムよりも低レベルの音を聴かなくてはならないのか。要するにあれはヘッドフォンステレオと大して音質のレベルが変わらない“安かろう悪かろう”のオーディオシステムしか自宅に持っていない層のためのオモチャであると、勝手に思っていた。

 ところが、かく言う私もiPodは購入しているし、自室のオーディオシステムに接続するたけではなく、最近はたまに外出先やウォーキング中に愛用している。もちろん単体のCDプレーヤーを通したオーディオシステムよりは音質は落ちるが、iPodにはそれをカバーできる利便性とユーザー・インターフェースの洗練度がある。

 ウォークマンの凋落は、商品のクォリティとしての進歩はあったが、コンセプト自体のイノベーションが不足していたからだと考えられる。井深大の要望を現実化させた技術力は大したものだが、逆に言えば企業のトップからの提案以外には商品開発のモチベーションが無かったのではないか。井深大の希望がたまたま一般ユーザーのニーズと合致しただけではないのかと思ってしまうのだ。



 ウォークマンの一件に限らず、SONYというのは技術偏重の企業である。自分たちはこういう新技術を開発した、凄いテクノロジーだから誰でも瞠目するはずだ、さあ買った買った・・・・というようなスタンスである。良く言えば自信満々、悪く言えば夜郎自大。一般ユーザーの都合を考えない商品開発は、しばしば市場からNOを突きつけられる。ベータマックスしかり、古くはLカセットやパルス電源方式のアンプ類しかりである。CDの考案にも大きな役割を果たしていながら、一般に普及させたのはSONYではなくもう一方の開発元であるPHILIPS社だったのも象徴的だ。

 今年発売される新型のウォークマンは多機能を誇る意欲作だという。しかし、それをもってしてもiPodの牙城は崩れないと思う。コンセプト面での新しい提案がなければ、いくら既存の方法論をリファインしても“本家”には追いつけない。ましてや井深大のような卓越した経営者が払底している今、SONYの復権は遠いものだろう。もちろんこれはSONYだけではなく他の国内大手オーディオメーカーにも言える。使用者の立場を考えない独善的な商品展開を漫然と続けていると、長期低落傾向に歯止めが掛からなくなる。いい加減、新技術のお披露目に終始するマーケティングを見直して欲しいものだ。ユーザーが求めているのは“良い音”と、それに付随する“使い勝手”なのである。テクノロジー云々は二の次・三の次で結構だ。
コメント
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