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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ダンスウィズミー」

2019-09-09 06:34:10 | 映画の感想(た行)
 楽しい時間を過ごすことが出来た。もっとも、不満な点はある。往年のMGMミュージカルやインド製娯楽映画等と比べれば、パフォーマンスは明らかに見劣りする。そもそも、歌や踊りに充てられた時間が少ない。しかし、それでも支持したいと思う。それは、今の日本映画で“やるだけやった”というレベルに達していること、そしてミュージカルが成立する前提そのものに切り込んでいること、この2点だけでも本作の存在価値は十分ある。

 努力の末に大手商社に就職した新人OLの鈴木静香は、ある日姪っ子と一緒に足を運んだ遊園地で、怪しい催眠術師のマーチン上田の手によって音楽を聴くといつでもどこでも、歌って踊らずにいられないようになってしまう。術を解いてもうため、翌日彼女は催眠術師のもとへ向かうが、相手は借金取りに追われて行方をくらました後だった。静香は急遽一週間の休みを取り、私立探偵の渡辺に調査を依頼すると共に、成り行きで同行するようになった千絵と洋子も加え、マーチンを追って東北から北海道まで駆け巡る。



 ミュージカルといえば、突然歌ったり踊り出すという、興味の無い者からすれば違和感満載の設定が“約束事”として横たわっているわけだが、本作はそこに疑問を呈するべく主人公を“外的要因”によってミュージカル体質にしてしまうという荒業を披露している。このモチーフはおそらく前例は無く、かつ痛快だ。

 しかも、ヒロインは子供の頃に学芸会で失敗して以来、ミュージカルが何より苦手ということを公言している反面、実は潜在的には舞台で歌うことが大好きである。この捻り具合には感心した。

 歌と踊りのシーンはそれほどクォリティは高くない。だが、それは職場やレストランといった日常的なロケーションで突如として出現し、ひょっとしたらもしも自分が居合わせたら参加できるのではと思わせるほどだ。そこが楽しい。おそらく“舞台で活躍するミュージカル役者がいくらでもいるのに、経験の浅いキャストを起用するのは納得出来ない”という意見も出るだろうが、あえて“本職”を極力排したことは冷静な判断だと思う。

 矢口史靖の演出は久々にノリが良く、終盤で伏線を全て回収する脚本も申し分ない。キャストでは主演の三吉彩花の奮闘が光る。相当な鍛練を積んだことが窺われ、それでもストリート系のダンス等には覚束ないところがあるが、長い手足を活かして実に楽しそうに歌って踊る。もっと映画に出て欲しい人材だ。やしろ優にchay、三浦貴大、ムロツヨシといった面々も申し分なく、マーチン役の宝田明の超怪演には笑った。

 使われているナンバーは70年代・80年代の既成曲が中心だが、ヘタにオリジナル曲を大量提示した挙げ句コケる危険性を考えれば、それで良かったと思う。個人的にウケたのが序盤に流れるスペクトラムの「ACT-SHOW」。約40年ぶりに聴いたが、古さを感じない佳曲だと思う。
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「天気の子」

2019-08-26 06:31:02 | 映画の感想(た行)
 新海誠監督の前作「君の名は。」(2016年)は、映像は素晴らしいが中身はカラッポの映画であった。だから本作を観るにあたって内容に関しては1ミリの期待も抱かず、ただ瀟洒な画面が流れていればそれでヨシとしよう・・・・というスタンスでスクリーンに対峙したのだ。しかし、その想いが打ち砕かれるまで、開巻からさほど時間はかからなかった。

 東京の裏町のゴミゴミとした風景は、確かによく描き込まれている。だが、それは“実写をそのままアニメーションの画面として置き換えたもの”に過ぎず、映画的な興趣にはまったく結び付かない。たとえば、キャラクターの動きやセリフを一時的に排して、映像そのものに何かを語らせるという工夫は見当たらない。単なる“背景”として機能しているだけだ。ならば“雲の上”の風景などの超自然的な場面はどうかといえば、これが宮崎駿作品の二番煎じとしか思えないような、アイデア不足のモチーフばかりが並ぶ。結局全編を通し、映像面での喚起力はゼロに等しかった。

 ドラマ部分は相変わらず低レベルで、話の辻褄がまるで合っていない。まさに支離滅裂の極みだ。キャラクター設定も薄っぺら。説明的セリフとモノローグばかりが粉飾的に山積している。要するに、作者には脚本を書く能力がもともと欠けているのだろう。

 加えて、声優陣も壊滅的。主人公2人をアテる醍醐虎汰朗と森七菜は、前作の神木隆之介と上白石萌音に比べると、それぞれの俳優としてのキャリアの差が声のクォリティに直結している。小栗旬もパッとせず、倍賞千恵子はやっぱりアニメの吹き替えは不向きだし、本田翼に至っては“声だけ”なのに、やっぱり大根だ。RADWIMPSによるナンバーは、ハッキリ言って耳障り。作者は映画音楽の何たるかも分かっていない。

 しかながら、“商品”としては良く出来ていると思う。この映画を観て“感動”してしまうのは、たぶん基本的に意識高い系の(中高生を中心とした)若年層だろう。彼らは映画として描写不足に終わっている部分に対しても“何か裏の意味があるのではないか”と、勝手に推測してくれるらしい。そして「君の名は。」のキャラクターがどこかに出ているの何のというネタが振りまかれることによって、それを自分の目で確かめるために何度も映画館に足を運んでくれる。

 結果としてリピート率の高い“優良顧客”を囲い込んで、興行成績を盤石にものにするという、とても効果的なマーケティングが展開されている。実際に客の入りはめっぽう良い。これで新海監督も次回作を堂々と撮れるだろう。もっとも、私は観ないけどね。
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「トイ・ストーリー4」

2019-08-19 06:29:33 | 映画の感想(た行)
 (原題:TOY STORY 4 )鑑賞後、居たたまれない気持ちになった。この映画の作り手は、一体何を考えてこの人気シリーズのパート4を手掛けたのだろうか。もちろん本作にはテーマ(らしきもの)が用意されているのだが、それ自体は極めて安易でチープであるばかりではなく、パート3までの世界観を丸ごと否定してしまうような暴挙でもある。これは断じて評価するわけにはいかない。

 ウッディやバズ、そして仲間たちが、新しい持ち主ボニーの元に来てから2年が経った。最初はボニーの遊び相手になっていたウッディも、次第におもちゃ箱の隅に追いやられるようになってしまう。ある日、ボニーが幼稚園で“自作”したおもちゃのフォーキーが現れる。



 フォーキーはボニーのお気に入りになるが、家族でキャンピングカーでドライブに行った際に行方をくらます。ボニーのためにフォーキーを探しに行ったウッディは、かつての仲間ボー・ピープと再会。力を合わせてフォーキーを取り戻そうとするが、そこに一度も子供に愛された事の無い人形ギャビー・ギャビーが立ちはだかる。

 すっかりイメチェンして“自立した女(?)”になったボーと顔を合わせたことにより、ウッディは終盤で“ある決断”を下すのだが、それは前作までに積み上げてきた全モチーフをひっくり返してしまうものだ。おもちゃは人間を見守ることしかできない“精霊”のような存在だが、持ち主がおもちゃに愛情を注げば、必ずそれは自分に返ってくるという卓越した設定、つまりはおもちゃと持ち主との関係性こそが本シリーズの核心だったはずだ。

 ところが本作ではおもちゃ達は人間を脇に置いたまま“自律的に”行動し、時には持ち主の家族の邪魔をするため“実力行使”に及ぶ。これはひょっとして“おもちゃにも人権がある!”などということを主張したいのだろうか。言うまでもなく、そんなのはお門違いだ。

 バズはパート1の前半みたいな低レベルの言動しか見せてくれないし、他のレギュラーメンバーもほとんど見せ場が無い。そもそも、舞台がキャンプ場にほとんど限定されているので、前3作のような空間的な広がりが感じられず、息苦しさを覚える。ボニーも周囲に馴染めない“困った子”になったし、父親に至ってはウッディを平気で踏んづける。おもちゃも人間も、共感出来るキャラクターが見当たらないのだ。

 ジョシュ・クーリーの演出は可も無く不可も無し。トム・ハンクスやティム・アレン、そして今回キアヌ・リーヴスまで加わった声の出演陣も特筆出来るものは無し。本国では評価が高く大ヒットしているようだが、この調子でパート5が作られても、私はたぶん観ない。
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「敵、ある愛の物語」

2019-06-16 06:49:59 | 映画の感想(た行)

 (原題:Enemies,A Love Story)89年作品。ポール・マザースキー監督のフィルモグラフィの中では、間違いなく「ハリーとトント」(74年)や「結婚しない女」(78年)と並ぶ代表作だと思うのだが、アカデミー賞候補にもならず(注:各種批評家賞は受賞しているが)いまいち注目度が低いのが残念だ。子供じみたシャシンが目立っていた当時のアメリカ映画界において、大人の感性に満ちた逸品として評価したい。

 1949年、ニューヨークのコニーアイランドに住むハーマンは、母国ポーランドでのナチスの弾圧によって妻子を失い、命からがらアメリカに逃れてきた。現在は命の恩人である女中のヤドウィガと結婚し、ユダヤ教のラビの事務所に勤めている。だが実は彼にはマーシャという愛人がいて、ヤドウィガには“外回りの営業に行く”と称してマーシャと逢瀬を重ねていた。

 そんなある日、何と死んだはずの妻タマラが彼の前に姿を現わす。実を言えば、大戦中すでに2人は離婚寸前だったのだ。タマラの存在を知ったヤドウィガは困惑するばかり。またマーシャからは“フロリダで仕事を見つけたので、一緒に行ってほしい”と懇願される始末。そんな折ヤドウィガの妊娠が判明し、いよいよハーマンは窮地に立たされる。

 まず、3人の女から惚れられ、結果として三重結婚の状態に陥ってしまう男が、別に二枚目でもなく甲斐性も無いという設定が面白い。凡庸な男でも、成り行きによっては女達から追いかけられる立場になり得るのだ(笑)。

 最も秀逸だと思ったのは、3人の女の住処がそれぞれコニーアイランド、ブロンクス、ロウアーマンハッタンと離れていること。この大都会の北の端から南の端に至る各ポイントを、ハーマンが地下鉄を駆使して飛び回るわけだが、それぞれの“土地柄”に合わせて3人のヒロインの性格も描き分けられていることに感心した。

 すれ違いと鉢合わせの連続で、ナチスのホロコーストから奇跡的に逃れたハーマンも、この先の読めない展開に疲れ果ててしまう。観ている側も同様に予想が付かないストーリーに翻弄されるが、映画はまさかの結末を用意していて驚かされる。結局はハーマンは“狂言回し”であり、物語の焦点は3人の女の生き方であったことが分かり、大いに納得してしまった。

 当時のニューヨークを再現してみせるセットは見事。色彩とライティング、モーリス・ジャールによる音楽、テンポのいい演出。そして賞賛すべきはキャスティングだ。マルガレート・ゾフィ・シュタイン、レナ・オリン、アンジェリカ・ヒューストンという芸達者の女優を並べ、持ち味を存分に引き出している。もちろん、ハーマン役のロン・シルヴァーも妙演。鑑賞後の満足度が高い逸品だ。
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「ドント・ウォーリー」

2019-05-27 06:27:50 | 映画の感想(た行)

 (原題:DON'T WORRY,HE WON'T GET FAR ON FOOT)良い映画だと思う。単なる難病もの(兼お涙頂戴もの)ではなく、内面の深いところまで掘り下げ、観る者に普遍的な感慨をもたらす。キャストの頑張りも相まって、鑑賞後の満足感は高い。

 オレゴン州ポートランドに住むジョン・キャラハンは、酒に溺れる自堕落な生活を送っていたが、ある日飲み仲間の悪友が運転する車に同乗した際に事故に遭い、下半身不随になる。車椅子生活を余儀なくされた彼は、ますます捨て鉢になり酒の量も大幅に増えてゆく。だが、冷やかし半分で覗いてみた“断酒会”のリーダーであるドニーの生き方に感化され、少しずつ前を向き始める。そして、以前から得意としていたイラスト作成を活かし、麻痺の残る手で風刺漫画を描き始めるが、これが意外な反響を呼ぶ。2010年に59歳で世を去った風刺漫画家キャラハンの伝記映画だ。

 何といってもジョンとドニーとの関係性が面白い。親に捨てられ、捨て鉢になってアル中になり、果ては事故で下半身麻痺。不幸を絵に描いたようなジョンの人生が、何不自由ない暮らしをしているが、実は性的マイノリティで、しかも難病に罹っているという複雑な立場のドニーと出会うことによってコペルニクス的転回を見せる。

 ドニーが提示する“回復までのステップ”は、ジョンをはじめとする“断酒会”のメンバーのためだけではなく、ドニー自身が生き方を顧みるプロセスでもある。時代背景は70年代後半で、ベトナム戦争の後遺症により老荘思想がアメリカに広まっていたという事実は興味深く、世俗や既存の価値観にとらわれず無理せずに生きるという教義が、2人を救っていく。ジョンが不遇な境遇を恨まずに、それどころか今まで関わってきた人々に許しを請うことによって、新しい局面を切り開こうとするくだりは感動的だ。

 ガス・ヴァン・サントの演出はジョンが描く漫画を内面描写のモチーフとするなど、凝っていながら押しつけがましくなくスムーズにドラマを進めて好印象。主演のホアキン・フェニックスは名演と言うしかなく、いつもながら出演作によって外観も変えてくる芸達者ぶりに感心するばかり。ドニー役のジョナ・ヒルのパフォーマンスも見事だ。自らの運命に対して悩み続け、それでも超然としてそれを受け容れるカリスマ的人物を上手く表現している。

 ルーニー・マーラやジャック・ブラックも良い味を出しているし、ウド・キアが元気な姿を見せているのも嬉しい。とにかく人生、何があっても“ドント・ウォーリー”という態度で、鷹揚に構えて乗り切っていきたいものだ。
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「天使」

2019-04-21 06:38:01 | 映画の感想(た行)
 (原題:L'Ange)82年作品。同名の映画は複数あるが、本作はフランス製の実験映画だ。しかしながら、いくら実験的なシャシンとはいえ、映画は映画だ。どれだけ観客にアピールするか、それが大事である。たとえば作者の心象風景か何かを映し出しただけで、娯楽性のカケラもないシロモノなど、評価するに値しない。ならばこの映画はどうか。順を追って感想を書いていこう。

 オムニバス形式の作品だ。まず画面に映し出されるのは、闇の中にストップ・モーションで現れる人影。カメラはとある部屋の入り口に進んでゆく。そこには天井から吊された人形があり、そこに仮面を被った騎士がサーベルでその人形に斬りかかる。なかなか過激なモチーフだが、同じフィルムを早回しや逆回転させているとはいえ、約10分間も繰り返すだけなので、いい加減飽きる。



 次の場面は、召使いの女がミルク壺を持って主人の元に運ぶくだりである。壺はテーブルから落ちて粉々に壊れて床にミルクが飛び散る。これを何回も何回も繰り返す。前のパートに比べると日常的な描写だと言えるが、必要以上に反復されると、そこは非日常と化す。かなり不気味で面白い。

 3番目はケラケラ笑いながら入浴している男が出てくる。浴槽以外は何も無い白い部屋に一人きりだ。ひょうきんな笑い声と水の音をデフォルメしたSEが良い。前章と併せてこの映画のハイライトだろう。次は傾いた部屋の内部。ベッドに横たわっている男は、やがて顔を洗い外出する。行き先である図書館では、同じ顔をした図書館員がせわしなく働く。ただ、それ以降はシュールな場面が出てくるわけではなく、何となく終わってしまう。

 ガラスケースの中に1人の裸女がいる。こん棒や丸太を手にした男達が突進する。ケースは割られ、中から煙や水滴のような物質が出てきてあたりに散乱する。銅版画のような映像が興味深く、退屈させない。そして最後のパートは、長い天国(?)への階段を上っていく人々の一枚のスチール写真にあらゆる角度から光をあてて、それを繋げたものだ。バックには強烈な現代音楽が流れる。なかなかハデだが、映画の締めくくりとしては物足りない。もうちょっと撮り方に変化を付けて欲しかった。

 全体としては不満な点はあるが、観る価値はあると思う。美術的には優れているし、楽しめるシーンもある。監督はフランスを代表する実験映画作家パトリック・ボカノウスキー。なお、当地では映画館では公開されず、私は市民会館の特別上映で観ている。
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「翔んで埼玉」

2019-04-07 06:46:56 | 映画の感想(た行)
 ほとんど笑えず、全体的には“お手軽映画”の域を出ない。早い話が首都圏在住(あるいは出身)の観客以外にはアピール度が低いということなのだろう。もちろん、そういう“地域ネタ”が幅広く支持を集めるほどに映画自体が練り上げられていれば文句は無いが、斯様な方法論は元々ハードルが高いし、この映画の作り手にそれだけの力量があるとは思えない。

 埼玉県人が東京都民から手酷い迫害を受け、逆境に甘んじている架空世界の話。東京のトップ高校である白鵬堂学院の生徒会長を務める壇ノ浦百美は東京都知事の息子で、学内では権力をほしいままにしていた。ある日、麻実麗というアメリカ帰りで容姿端麗な転校生が学園にやってくる。あろうことか百美は麻実に恋心を抱くが、実は麻実は埼玉県出身であった。その事実を知って動揺する百美だったが、次第に埼玉差別の理不尽さに気付き、麻実に協力するようになる。



 特定地域をバカにするような笑いの取り方は、昔タモリやビートたけし等がさんざん披露したものであり、新鮮さは無い。しかも、かつてのタモリ達は無関係の土地の住民をも爆笑させるような語り口と段取りの良さを持ち合わせていたが、この映画の作者にはそんなものは見当たらない。内輪でウケそうなネタを並べているだけだ。

 武内英樹の演出は平板で、ストーリーの流れが良くない。大風呂敷を広げるだけの予算が無いことも関係しているのだろうが、盛り上げようとしているシークエンスは全て空振りしているような印象だ。

 だいたい、私のような地方の住民にとって、東京近辺でのマウンティング合戦などに興味を覚えない。埼玉にしろ千葉にしろ、東京に近いこと自体が利点でもあるわけで、何をそんなに自虐的なギャグを繰り出しているのか分からない。

 “埼玉の人間は池袋に集まるのだよ”などと御大層に言われても、“それがどうした”と返すしかないだろう。何せこっちは過去にわずかな期間しか東京に住んでいないし、埼玉県なんか3回しか行ったことがないんでね(笑)。

 百美役の二階堂ふみの男装はけっこう魅力的だったと思うが、麻実に扮するGACKTのパフォーマンスは想定の範囲内だ。伊勢谷友介に麻生久美子、中尾彬、麿赤兒、竹中直人、京本政樹と配役は豪華だが、作者は使いこなしていない。ただ、はなわによるエンディングテーマ曲は面白かった。
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「ドミノ・ターゲット」

2019-02-24 06:23:01 | 映画の感想(た行)
 (原題:The Domino Principle)77年作品。数々の秀作をモノにしたスタンリー・クレイマー監督も、最後の映画になった本作では往年の才気は影を潜めてしまった。ただし、製作当時の先の見えない国際情勢を反映しているであろう点には、多少の興味は覚える。

 カルフォルニア州のサン・クエンティン刑務所に殺人犯として収監されているロイは、ベトナム戦争では凄腕のスナイパーとして恐れられていた男だった。ある日、マービンと名乗る男がロイに面会に来る。ロイにとって初対面の相手だが、マービンはロイの過去をよく知っていた。そして“我々に協力すれば出してやる”と言う。ロイは同房のスピベンタも同行させることを条件に、マービンの提案を受け容れる。

 脱獄したロイを待っていたのはリーザー将軍という謎の男で、彼はロイをコスタリカに連れて行く。そこでロイは妻のエリーに再会し、束の間の安息を得るが、やがてリーザー将軍は彼に暗殺の仕事を持ちかける。渋るロイだったがエリーを人質に取られ、仕方なく政府要人を始末する任務に就く。

 主人公を取り巻く状況は曖昧模糊としている。たぶんマービン達はCIAか何かなのだろうが、どういう理由でロイに目を付け、何を目指しているのかハッキリとしない。また、当然のことながら簡単に言うことをきかないロイに“仕事”を押し付ける算段も上等とは思えない。そもそも、エリーと一度会わせて良い思いをさせた後に態度を豹変させてロイに強要するのは、どう考えても面倒くさい(笑)。

 後半になると、ロイに“仕事”を持ちかけたキーマンの一人が消されたり、序盤にいなくなったはずの人物が何の説明も無く生存していたりと、プロットが乱雑になってくる。やがて気勢の上がらないラストが待ち受けているという、鑑賞後の印象はあまりよろしくない。

 とはいえ、中米とアメリカとの関係性を暗示するようなモヤモヤした雰囲気は、ある程度は出ていたと思う。また、主人公がヘリコプターに乗ったまま狙撃体制に入るという活劇場面だけは面白かった。

 ロイ役のジーン・ハックマンをはじめ、キャンディス・バーゲン、リチャード・ウィドマーク、ミッキー・ルーニー、イーライ・ウォラックとキャスティングはかなり豪華。ただし、作劇面でそれらが活かされていたとは言い難い。ビリー・ゴールデンバーグによる音楽は悪くない。
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「デイアンドナイト」

2019-02-11 06:36:32 | 映画の感想(た行)

 かなり重量感のある映画だ。“人間の善と悪”というテーマはありふれてはいるが、これを真正面から捉えて有無をも言わせぬ力業で見せきっている。また、我々が現在直面する社会問題を真摯に取り上げていることもポイントが高い。2019年の劈頭を飾る注目作である。

 秋田県の地方都市に、東京から明石幸次が帰ってくる。自動車修理工場を営んでいた父親が、大手企業の不正を内部告発したものの、訴えは無効になった挙げ句に近隣住民から村八分にされ、心労で自殺したのだ。残された母を支えるため仕事を探す幸次に、児童養護施設“風車の家”のオーナーを務める北村が施設で働かないかと声を掛ける。調理係として勤務するようになった幸次は、そこで高校生の奈々と知り合う。両親の顔も知らずに育ち、心を閉ざしがちだった彼女は、なぜか幸次には親しく接するのであった。

 やがて北村は幸次を“夜の仕事”に誘う。それは自動車窃盗グループの片棒を担ぐことだった。明らかな違法行為だが、北村は子供達を養うためには仕方が無いことだと割り切っている。最初は渋っていた幸次だが、北村に引きずられるまま悪事に手を染めていく。そして父を死に追いやった大手自動車メーカーの幹部を、復讐のターゲットに定める。

 よく考えれば本作のプロットには無理がある。いくら辺鄙な場所で夜間に“仕事”に励んでいるとはいえ、この窃盗団はかなり大規模だ。警察に目を付けられずに長い間活動出来るとは考えにくい。北村の生い立ちや境遇もドラマティックではあるのだが、さすがに現実離れしている。

 しかしながら、この映画の求心力の高さはそんなマイナス要因を余裕でカバーする。主人公の父親がやったことは、善意を背景にしていることは明らかだ。ところがその結果は世の中に反映出来ないどころか、逆に告発した本人(およびその家族)を追い詰める。不正の指摘を握りつぶす大手メーカーの姿勢は、道義に反している。だが、自社の従業員と取引先を守る上では、やむを得ない行為であるとの考え方も出来る。

 北村は犯罪者だが、福祉事業に専念するだけでは子供達を救えない。北村に手を貸す幸次のスタンスも、似たようなものだ。確かに善悪に拘泥していては自体は前に進まないが、善悪を本質的に考慮しない行為は、最終的に皆ツケを払わせられる。そんな冷徹な真実を容赦なく描く姿勢には説得力がある。

 加えて、地域を覆う暗鬱な同調圧力の実態も鮮明に示される。本来ならば、国や地方の当局側が社会正義をフォローする立場であるべきだが、問題解決を放棄して各人の自己責任に帰着させることを恥とも思っていない。世の中全体を縮小均衡に導く閉塞感を、北国の暗鬱な空模様や発電用の巨大な風車群が象徴する。

 藤井道人の演出はパワフルで、一時たりとも気を抜けない。企画原案を兼ねた主役の阿部進之介のパフォーマンスは良好。ナイーヴさと内に秘めた攻撃性を巧みに両立させた妙演だと思う。北村役の安藤政信も久しぶりにクセ者ぶりを発揮。田中哲司は楽しそうに敵役を演じる。小西真奈美に佐津川愛美、渡辺裕之、室井滋と、脇の面子も充実。奈々に扮する清原果耶は健闘していて、彼女自身の歌唱によるエンディング・テーマ曲も印象的だ。今村圭佑の撮影と堤裕介の音楽は申し分ない。
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「天才作家の妻 40年目の真実」

2019-02-09 06:26:07 | 映画の感想(た行)

 (原題:THE WIFE)感服した。非凡な題材に、先の読めない展開。見事なラストの扱い。加えて、キャストのパフォーマンスの素晴らしさは観る者を圧倒する。まさしくプロの仕事で、鑑賞後の印象は上々だ。

 コネチカット州に住む老作家ジョゼフ・キャッスルマンのもとに、スウェーデン・アカデミーからノーベル文学賞を授けるとの知らせが届く。妻のジョーンと共に大喜びするジョセフは、友人や教え子らの前で妻に感謝の言葉を告げる。息子のデイヴィッドと共にストックホルムを訪れた2人だが、ジャーリストのナサニエルの出現で祝賀ムードに暗雲が立ちこめる。

 ジョゼフの伝記本を書こうとしているナサニエルは、ジョセフが前妻と別れてジョーンと一緒になる前は、三流の作家に過ぎなかったことを突き止めていた。つまり、ジョセフが著した数々の傑作は、ジョーンの手によるものではないのか・・・・という推論をナサニエルは彼女に披露する。しかも、ジョセフは若い頃から手の付けられない浮気者で、前のカミさんは旦那をジョーンに押し付けることが出来て清々しているという。そんな疑惑を内包しつつも、授賞式には夫妻は華やかに正装し、人生の晴れ舞台に臨むのであった。

 ノーベル賞という権威あるアワードをネタに、これだけスキャンダラスな話を提示するという、作者の度胸にまず感心する。キャッスルマン夫妻が結婚した当時には、出版界に女性蔑視の風潮が蔓延っていた。そんな現実に失望し、夫の“手伝い”をしているうちに作品が売れてしまう。不本意な境遇に約40年も甘んじていたジョーンだが、夫のノーベル賞獲得を前に、積年の鬱屈が表面化してくる。

 一方のジョセフも妻に対する長年のコンプレックスが頭をもたげ、夫婦は一触即発の状態になる。さらにデイヴィッドは駆け出しの作家でもあったが、父の名声が重圧になり、自分らしい生き方が出来ない。各人の思惑が絡み合い、そのままクライマックスの授賞式へと雪崩れ込み、その後にまた大きな見せ場を用意するという、脚本のジェーン・アンダーソンと監督のビョルン・ルンゲが仕掛ける怒濤のドラマに息つく暇も無い。

 表現者の矜持と家族の肖像、虚飾に満ちてはいるが、一般世間的には確かな成果を上げてきた作家が出した“結論”とその顛末には、有無をも言わせぬ説得力がある。出演陣は皆良い仕事をしているが、中でもジョーン役のグレン・クローズは、このベテランの総決算的な名演を見せる。

 ジョセフに扮したジョナサン・プライスの海千山千ぶり。クリスチャン・スレーターやマックス・アイアンズ等の脇の面子も良い。若い頃のジョーンを演じているのがクローズの娘のアニー・スタークというのも嬉しい。ジョスリン・プークによる効果的な音楽、時折挿入される手持ちカメラがインパクトが大きいウルフ・ブラントースの撮影など、スタッフの質も揃っている。
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