コロナ感染者が再び増加傾向になった東京地方。検査人数が以前より増加しているからとはいえ、毎日数字が更新されて、その数に一喜一憂することはどこか落ち着かず気分のいいものでは無い。最終的には、細心の注意を払って自己防衛しかないのかも。いや、大変な世の中になったものだ。
そんな中、いつもの新日本フィル定期演奏会。今回はホームであるすみだトリフォニーである。もちろん聴衆の人数制限もかかり、出演者やプログラムにも変更が重なる。今までは考えもしなかった状況の中で聴く演奏会だが、アントンKは意外にも簡単に受け入れられてしまった。たとえ厳しい日常であろうとも、音楽の持つエネルギー、大きさに自分の身を置くことで、気持ちが高揚し発想が高まり、終演後の幸福感はほかに例えようがないのだ。
今回は、前半にベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番、後半にシューベルトの交響曲「ザ・グレイト」と続く。そして指揮者が来日が不可になった上岡敏之氏に代わって、太田弦氏という超若手の指揮者が登壇した。26歳という新進気鋭の実力派のようで、上岡氏とは違った意味で楽しみ。特に昔は大変聴きまくった「グレイト」を振るとなると、興味深々で会場に向かったのである。
いざ聴き終わってみて、とてもフレッシュな良いものを聴いたという印象が残る。特にシューベルトは、以前から実演やCDを聴きまくった楽曲でもあり、アントンKにとっても思い入れも深い曲なのだが、いずれの演奏とも違う、はつらつとした内容でとても好感をもったのだ。演奏自体は、全体を通してテンポは速めで突き進む解釈だったが、ただそれだけではなく、全体を通して歌があり、特に第2楽章の木管など特質に値すると思われる。しかしこのテンポで突き進んでいく場合、やはり弦楽器群の下支えは重要で、リズム感や刻みの浮き沈みの妙には、聴いていて圧倒された。今回は、弦楽器奏者たち全てがマスク着用しており、演奏を端で見ていて危惧していたのだが、全く影響はなく、それどころか、ここぞのエネルギーの発散は尋常ではなく、それに飲み込まれそうになってしまったのだ。これはもちろんコンマスの崔文洙氏の好演によるものだが、若手指揮者太田氏の意図を読み解きながらけん引していった、崔氏の采配の上手さを見せつけられた想いだった。
今回の演奏は、アントンKの好みからすれば少し違っていたが、明らかに良い演奏であり、実演ならではの躍動感、緊張感は例えようがない。こんな若手のマエストロが、大オーケストラ相手に、これだけの演奏をする。素晴らしい事ではないか。将来に向けて大いに期待したいし、我々聴衆をまた熱くする内容で迫ってきて欲しい。
新日本フィルハーモニー交響楽団 第32回ルビー定演
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 OP15
シューベルト 交響曲第8番 ハ長調 D944 「ザ・グレイト」
指揮 太田 弦
ピアノ 田部 京子
コンマス 崔 文洙
2020年7月18日 すみだトリフォニー大ホール