アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

千両役者!大植英次

2014-07-19 20:00:00 | 音楽/芸術

久しぶりに大植英次の演奏会に出向いた。

大阪フィルの常任を離れ、現在は日本に世界に大活躍の大植氏だが、今回は、東京フィルの定期に客演している。シューマンの第2と、ブラームスの第2というどちらかというと地味な選曲だが、彼がいったいどう表現しているのかいつもながらワクワクして会場に足を運んだ。4月に大阪のシンフォニーホールで演奏された大フィルとの「アルペン」には行けず、涙を飲んだから、なおさらその思いは強かった。

前半は、シューマンの第2交響曲。これは指揮者大植氏の修行時代、師であるレナード・バーンスタインの得意レパートリーである同曲をPMFオーケストラで採り上げた際、大植氏自身も一緒になって演奏していた思い出深い楽曲のはず。師であるバーンスタインの演奏とは、当日はかなり違っていたが、それでも大植氏の大胆な表現は、楽章が進むにつれて明白になり、聴衆を圧倒していた。特に第2楽章のコーダのスピードは、限界に挑戦といった感じで、オケをあおり、この部分は聴衆も息を飲んでいただろう。

後半は、ブラームスの第2交響曲。今思い返せば明らかにこちらに重きを置かれた演奏内容だったと思う。アントンKが気がつかず、聴き逃しているだけかもしれないが、このブラ2での指揮者大植の表現は、かつて聴き覚えのない内容で、これがブラームスか、と思い返すほど。特に木管楽器のCLなどの演奏表現力は、舌を巻いてしまう。もちろんこれは、指揮者の指示であることは明白だが、それに応えたプレーヤーの技量も大したものだ。オケも、曲が進むに連れて益々好調になり、そしてフィナーレを迎える。全体的にいえることだが、早めのテンポ設定で通し、縦の線が揃わない箇所も多いが、明るく、勢いがあり、指揮台の大植氏は、まさに「大植、ここにあり!」といった感じで、特徴的な指揮表現でオケを引っ張る。昔、朝比奈隆が、「指揮者は、歌舞伎で言えば千両役者のようなもの」と言っていたが、まさに、目の前の大植氏を見てそのことを思い出してしまった。身振り手振りはもちろん、顔の表情などは、まさに歌舞伎の世界を思わせる。彼にとって、舞台袖から聴衆の前に立った瞬間から、役者に徹しているのだろう。いわゆるナルシストとも言えるかもしれないが、大植氏を見ていると、全てが決まっていてカッコ良い。東京フィルの技術力も大したもので、各声部とも良く鳴っていて気持ちがよい。第4楽章のコーダでは、Tbの下降音形の後の(405小節目以降)ティンパニの八分音符が、これほど聴こえた演奏をアントンKは知らない。全休符前の2拍にアクセントを付けて全体をキリっとさせて(もちろん指揮者大植の指示だが)おり、その後に続く金管楽器群の絶叫は、まるで大蛇のごとく絡みついてきた。ここの部分は、完全にインテンポを保ち、最後まで突進したが、中々の迫力と豊満な音色に圧倒されてしまった。決して好みの演奏内容ではなかったが、大植氏の体臭のする表現力に「ブラボー」と叫んでいた。

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第850回 サントリー定期シリーズ

シューマン 交響曲第2番 ハ長調 OP61

ブラームス 交響曲第2番 ニ長調 OP73

大植英次指揮

東京フィルハーモニー管弦楽団