風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

森に彷徨い入る

2009-12-08 00:03:56 | コラムなこむら返し
Sakura_humanlight ボクが住んでいるところは東京都下なのだが、実は歩いてものの10分とかからぬところに森がある。そこは小高い山であり、稜線が埼玉県との県境になっている。そう、手っ取り早く言ってしまえば、ここはあのトトロの森で全国的に有名になった場所である。その森のある小高い山は「八国山」と言い、メイと五月の母が入院している結核病院のある「七国山」のモデルとなったところだと言うことは、以前にも書いた。だからそのふもと近くに住むボクの住まいの近くには、猫バスが走っているのだ。ヘッドライトのように眼を光らせた山猫がバス本体となって循環している。
 言うまでもないが、雨後の筍のように森ガールがたくさん徘徊し、収穫できる(笑)。彼女たちは、21世紀に作られた精霊であるトトロの出現を、今か今かと追い求めているらしい。いや、これはジョークではない。ボクが理想としているような粘菌が好きで、南方熊楠の書物を片時もはなさない女子とか、ヘンリー・D・ソローの『ウォールデン・森の生活』を読んでいる森ガールにはそうそうお目にかかれないが、それでも有機農業に関心を持った娘さんとか、フェアトレードに関心を持ちフリマや古着好きの女性は結構いる。そもそもその小高い山の麓に居を構えている小金持の方々のお宅は一様にガーデニングがはやりで美しい花々で、玄関先まで飾られていて貧乏な散歩者の眼を楽しませてくれる。

 その中に「チョウの森」がある。繁殖を保護するために森の中には立ち入り禁止になっている。冬場にさすがに、見ることはできないが、森の中を飛翔する蝶の姿を春先には見ることが出来る。
 最近には、市内に「人権の森」というのができた。いや森が急にできる訳はなく、そこは以前は世間から隔離された国立ハンセン病療養所「全生園」の中の木立なのだ。つい最近(1996年)まで百年におよぶ隔離政策により世の中から隔てられ、療養所内にのみ閉じ込められたハンセン病患者さんたちは、故郷を思い、塀の外を思って一本一本の樹を手植えした。その木々が作る園内の森を「人権の森」として引き継ぎ、国民皆のものとして鎮魂と苦難の歴史を伝えてゆこうというコンセプトであるらしい(「いのちとこころの人権の森宣言」)。

 その場所はそのような歴史の暗部を担ってきた記憶があるために、妙に懐かしい昭和の町並みの(とりわけ平屋の民家や長屋を連想させる)木造建築であり、またボクにはヤマギシ会のコミューンを連想させたものだった。ここにも、是非とも「森ガール」たちには闊歩してもらいたいものだ。春には、巨木、古木となった桜並木が君たちを迎えてくれるだろう。モリガールとは、またあの昭和初期の先進的なファッションを決めた「モガ」(それはモダンガールの略だった)ともつづめることができるだろう。「人権の森」に、ナショナルトラストの森である「トトロの森」に、その妖精的なファッションを花咲かせてもらいたいものである。

(写真)09年春の「全生園」内のサクラ。