風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

NHKにみる明治と昭和

2009-12-09 14:12:17 | コラムなこむら返し
 NHKは旧日本海軍の最高指揮機関だった「軍令部」のいわば生き残り同窓会組織である「水交会」が催していた「海軍反省会」の400時間にも及ぶ記録テープ(カセットテープによる音声記録)をもとにこの夏、3回シリーズの番組を制作放映した。シリーズのそれぞれの内容は、開戦に至った経緯、特攻作戦に踏み切った事情、戦後「東京裁判」での徹底した戦犯擁護の運動などであった。それは、大日本帝国軍のおそるべき内実を当事者が語ることによってはじめて白日の下にさらした記録だったと言える(陸軍では「参謀本部」にあたる海軍「軍令部」は、天皇の統帥権を我がものとすることによって実質的な最高指令本部だった)。
 奇妙なことに、その真実に対して大東亜共栄圏と言う美しい共同幻想の最前線を闘い、多くの仲間を飢餓と圧倒的な兵力差で失い、自らも九死に一生を得て生き残ったはずの老人たち??現在、80歳を越えたかっての帝国陸海軍の一兵卒たちから怒りの声はでていないようである。もはや老境に入った彼らからは、青春を、失った友を、人生を返せという怒りよりも諦観しか聞けないのだろうか?
 そして太平洋戦争開戦記念日の前日の12日その総集編とも言うべき検証番組が放映された。机上の作戦以外の戦争をリアルに知らなかったこの一大エリート集団は、国家予算を独り占めし、帝国軍隊組織の頂点に君臨するという「組織」それ自体の野望と論理によって、展望なき対米戦争に踏み切り、国家を存亡せしめた。そして、そのことの責任を誰一人としてとろうとはせず、そのほとんどが、生存し、戦後を生き延びた。「水漬く屍」となった数百万の英霊の御霊(みたま)にどのような謝罪をしたのか、聞いてまわりたいくらいである。謝罪どころか、戦後、自衛隊の倒幕長となったお方もいらっしゃる。
 そして、番組内で紹介された感想では、多くの視聴者が、この番組を見て現在の会社組織や、官僚組織とのアナロジーを感じたようであった。おかしいことをおかしいと指摘せず、口に出す前に?み込んでしまう。究極は、天皇家に至る上下関係や権威に易々と付き従う、などなどである。
 この番組など、NHKでしか制作できなかったのではないかと思わせるほど、「昭和」と言う戦争の時代を冷厳に検証した。

 ところが、その同じNHKはあたかもイデオロギー操作をするかのように、今年になってから「明治」という時代を華美に礼賛(らいさん)している。「プロジェクトJAPAN」というシリーズと、司馬遼太郎原作のドラマ『坂の上の雲』である。「昭和」という時代を冷静に検証したその冷厳な眼が、なぜ「明治」にあっては美化になるのだろう。近代化をなしとげ、アジアにあって列強に並ぶというその過程が「青雲の志」で胸高鳴らせる少年や青年の姿に重なるのだろうか?
 この国の現在にまでいたる悪弊の根源は、実は「明治」??国民を天皇の臣民と規定し、欽定憲法として天皇から下逹されたという形をとった大日本帝国憲法(明治憲法)の制定に由来するのではないだろうか?
 その明治憲法はこの国を天皇の国家ならしめるために、作られた憲法であり、近代国家の態を急ぐあまりに王政復古がそのまま神権国家になってしまった。「万世一系」の天皇家が、国家存立の根拠になってしまったのである。
 戦前の「昭和」すなわち、昭和20年8月以前の「昭和」と「明治」は、まったくもってつながっているのである。「明治」を礼賛する認識で、決して戦前の「昭和」は、分析できないだろう。そもそも、「明治」も、「昭和」も「平成」も元号なのである。天皇の御代のことなのである。この国の憲法の第1章から天皇規定(第1条から第8条までは天皇規定)がなくなるのはいつなのか?
 第1章の天皇規定がなくならない限り、この国は立憲国家のままなのであり、すべては象徴であれ天皇から与えられたものとなってしまうのではないか? 国民主権を言うなら、天皇規定は不要だと思われる。
 論理におけるNHKの矛盾と混乱は、この国のおかれた矛盾と混乱をそのまま反映しているのかもしれない。