第1回 /
第2回 /
第3回 /
第4回 /
第5回 /
第6回 /
第7回 /
第8回
第9回 /
第10回 /
第11回 /
第12回
---
二ヶ月後
「虹のような優しさで、君を包んでいたい」
廊下側から三列目、前から三番目の席の男が、隣の席の由佳里の方に体を向け、瞳を向け、映画スターのような表情で、そう呟いた。
「わけわかんないよ~」
由佳里は、ホンのチョットだけ口を尖らせた笑顔で、男の瞳を見つめた。
「え~、これ、かなりいけてると思うんだけどな~」
男は、自分の机上に置かれた藁半紙に瞳を向けた。
「全然似合ってないし」
「んなことねえだろ~よ、もうね、世界中の女の子が駆け寄ってくるよ」
「そんなのあるわけないじゃん」
「じゃ、自分の言ってみろよ」
「言わない」
「なんでだよ、俺、言ったじゃん」
「勝手に言ってきただけでしょ」
「でも、聞いたんだから、言わなきゃ駄目だろ」
「関係ないもん」
「ほんとな~。・・・あ、窓の外、コンドルが飛んで行く」
男は、右手で自分の瞳の先の空を指差し、左手で由佳里の机上に置かれた藁半紙を掴もうとした。
「そんな古い手に、ひっかかんないよ~だ」
由佳里は、男の左手が藁半紙に着地する前に、笑顔と右手でそれを持ち上げた。
「っきしょ~、絶対引っかかると思ったんだけどな~」
「甘い、甘い」
「おい、ハンナマ。おまえ、どんなの書いた?」
そう言いながら男は、右手でハンナマの左肩を軽く叩いた。
「え、まだ書いてねえよ」
ハンナマは、男の方へと振り向きながら答えた。
「早く書かねえと、時間なくなんぞ」
「いいよ、そんでも別に」
「よかないだろ、一応、課題だぜ、これ」
「課題っつってもな~」
「なんか、適当に書いときゃいいじゃん。どっかの歌詞のフレーズ、パクるとかして」
「あ~、それいいかもな」
「でも、やんならマイナーな曲の方がいいんじゃねえか。メジャーなのだとすぐバレっから」
「おお、そうするわ」
ハンナマは、体を机に向かい直した。
「ねえ、半川君のどんなだった?」
由佳里は、少し開き気味の瞳で男を見つめた。
「まだ書いてないって」
「なんだ~」
「それより、早く見せてよ」
「なにを?」
「自分の書いたやつ」
「だから、嫌だって」
「いいから、いいから、ホンのチョットだけ、ね」
「い~や」
由佳里は、全ての男がとろけてしまいそうな、はっきりとした口元と、純粋な瞳で、藁半紙を覆い隠した。
「そう言わないでさ~」
男は、由佳里の右の二の腕を両手で軽くつかみ、前後に揺らした。
二人は、朱色の振り子のように揺れている。
「おい、できたぞ」
ハンナマが、右手に藁半紙を持ち、左回りに振り向き、男の右肩を小突いた。
「お、もうか」
男は両手を離し、ハンナマから藁半紙を受け取ると、由佳里には見えないように、体を斜め右にくねらせ、そこに書かれていた一行文を読んだ。
【愛してる とても遠くまで】
「こんなんでいいだろ」
「うん、なかなかいいじゃん」
「あ、見して見して」
由佳里が藁半紙に向かい、細白い右手を伸ばした。
「だめ~」
男は、由佳里の手が届かないくらい高く、藁半紙を宙に上げた。
「いいよね?半川君」
「え?、ん~」
「駄目でしょ」
「うん、駄目だな」
「え~、別に、減るもんじゃないんだからさ~、ね」
「いや、減る減る」
「ヘルクラッシャー?」
ハンナマは両腕をそろえ、それを前に突き出しながら、そう呟いた。
「そう、ヘル、クラッシャー」
男はその声と共に、ハンナマと同じように両腕を突き出し、由佳里の右の二の腕に軽く当てた。
「も~」
由佳里は、左手で右の二の腕をさすりながら、男を見つめた。
「じゃ、わかった。そっちの見したら、こっちのも見してやるよ」
「ならいい、見せない」
「なんで、そんなに見せたがらないかな~?」
「なんで、そんなに見たがるのかな~?」
「ふふっ、そうきましたか」
「はい、そうきました」
「由佳里、ちょっと見せてね」
突然振り向いた舞子が、由佳里の藁半紙を、右手で軽く取り上げた。
「あ」
【いつもはお笑いな貴方、真剣に授業を受ける横顔が素敵】
「ふ~ん、やっぱり~」
「なにが~?」
「ん、別に~」
「も、舞子のも見せてよ」
「や~だ~」
舞子の机上にあった藁半紙を取ろうと、絡み、縺れ合う二人。
「また、イチャついてるよ」
男は二人を指差して、そう言った。
「ほんと、仲いいよな」
「俺達も見習って、やってみるか」
「バ~カ」
放課後
かおりんと裕子は、絵葉書のように、音楽室の隅でお喋りをしていた。
「あ、ねえ、私って、普通じゃないのかな?」
「なにが?」
(氷オニの話、もう終わり?)
「・・・ううん、別に。忘れて」
「え~、でも、そう言われたら、余計気になるよ~」
(ま、ほんとは、あんまり気になってないんだけどね)
「気にしないで、ほんとに、ね」
「だって、外見は問題ないっていうか、普通の人より全然かわいいし」
(いまだに見とれちゃう時あるもん)
「そんなことないよ、普通だよ~」
「じゃ、内面のこと?」
(こう、心から謙遜しちゃうとこが、またかわいいんだよね)
「・・・実はね、」
「ん?」
(ほんとに、なにかある、はずないと思うけど)
「それより、ねえ、あの、今度の日曜日、2人で遊びにいかない?」
「え。・・・あ、そうか、今度の日曜、部活休みだったんだっけ」
(あ~、なんか、久しぶりの休みだな~)
「そう、だからね」
「うん、いいよ、別に」
(すっごく楽しそうだし)
「よかった。じゃ、どこ行く?」
「別に、どこでもいいよ」
(あ、でも、映画とかがいいかな)
「どこでもいいじゃ、困る」
「じゃ、裕子はどっか行きたいとこないの?」
(そんな、僕じゃ決められないよ)
「かおりんと一緒なら何処でもいいよ」
「え?」
(それって・・・)
「だから、かおりんが決めていいってば」
「決めてって言われても」
(あ~、なんか、すごいドキドキしちゃってるよ)
「ねえ、ほんと、何処でもいいから」
金糸埃が、キラヒラと日に焼けたオルガンの上に舞い下りた。
「・・・あ、じゃあ、ディズニーランドってとこにでも行く?」
(かおりんが前に天川と行ったことあるみたいだし)
「うん、それいい」
「でも、お金とか大丈夫かな?」
(なんか、名前からして高そうだもんな~)
「大丈夫だよ、いざとなったら私がおごってあげるから」
「それはいいよ。たぶん、なんとかなるから」
(女の子におごってもらうってのも、嫌だからね)
「じゃ、何時ごろ出発する?」
「早目の方がいいんじゃない?」
(どのくらいかかるのか、全然わからないけど)
「そうだね、そうしよ。向こうで長く遊べるだろうし」
「行くからには、長く遊びたいもんね」
(電車代も、チケット代ももったいないし)
「7時くらいの電車がいいかな?」
「うん、そのくらいでいいんじゃない。起きるのチョット辛そうだけど」
(休みの日まで、早起きか)
「絶対、寝坊とかしないでよ~」
「その辺は、大丈夫」
(決められた時間はキッチリ守るからね)
「そうだ。洋服とかって、なに着てく?」
「う~ん、天候にもよるけど、基本的にはボーイッシュな感じかな」
(スカートって、いまだに苦手だし)
「ふ~ん。・・・じゃ、私は、思いきって、お姫様スタイルにしちゃおっかな」
「あ、すごい似合うと思うよ」
(っていうか、なに着てもかわいいからな)
「ほんとに?」
「うん、ほんとほんと」
(もっと、自信持ってもいいのに)
「かおりんがそう言うなら、着てっちゃおっかな」
「じゃ、私、王子様の格好しようか?演劇部に衣装借りて」
(あの、宝塚ってやつみたいに)
「ははっ。それいいかも」
「今度、恵子に頼んでみよっかな」
(借りられないだろうけど)
「うん、そうしなよ」
「冗談だって、冗談」
(そんな格好、絶対やだしね)
「・・・楽しみだね」
「うん」
(どうなるんだろう。でも、ほんと、楽しそう)
「2人っきり、だもんね」
---
『約束』
も う 一 度
や り 直 す
そ ん な こ と
二 度 と
で き ま せ ん
も ち ろ ん
一 度 と も で す
---
第14回
---
第13回あとがき
[当時]
普段ならば、基本的に上から下へと順に書いていくんですけど、
今回は、上へ下への大騒ぎって感じで書いてみました。
ちょっと繋がりがおかしいかもしれませんけど、
本来、これがこの作品の特徴の1つでもあるんです。
[現在]
やっぱりお話が飛び過ぎな気がします。
繋がりつつも1回1回が独立した連載用の作品になってます。
それもそのはず、書き方が変わってたんですね。
前はwordさんでダーッと書いてたのが、
途中からHTMLさんでチョコッと書いて、
それをwordさんに加えてる方式に変わりました。懐かしい。